恋ベル2

 次の日、気分が重たいまま学校へ向かう。


「シザ!おはよう!」


 井下は私に向かって笑顔で廊下を走ってくる。


「こら!走っている奴は誰だ!!」


 先生は廊下を走っている井下を叱り、井下はその場で止まり忍足で私の方へ歩いてくる。


「おはよう。」

「朝から怒られたよぉ〜。はぁ〜疲れた。」


 井下は先生に注意を受け凹んでるようだった。


「…疲れたってまだ始まっただけだけど。」

「そうなんだけどって違うよ。昨日大丈夫だった?私追いかけようとしたらあの大明神って人が阻止して。」

「うん。大丈夫だったよ。クロは楽しめた?」

「あの後すぐ帰った。あんな事するなんて許せないもん!誰も連絡先聞かなかったし。初不電交換はつふでんこうかん。」

「ぷっ。何それ?あははは。」

「初めて電話交換が不要って事。」

「それ、訳しすぎだから。あはは。」


 私達は笑いながら教室に入ると昨日の一緒に行った彼女達も駆け寄ってきて、男達の暴言と行動に静電気のように散らばせ、私はその話を苦笑いしながら聞いていた。


ガヤガヤガヤ。


 教室では放課後にクラス全員が残り、学校行事のオリエンテーションの班決めを委員長としてクラスに話をしていた。新学年でまだ慣れないクラスは班決めもスムーズに決まらなかった。


「とりあえず八人グループなので男女四人決まってる方は前出てきて黒板に一から四班の枠に名前を書いてください。まだな人はそのままで待っててください。」


 ぞろぞろと決まってる男女が黒板に名前を記入していく。黒板の前では男女と話をしながら班決めている間、まだ班が決まってないクラスメイトに意見を聞きながらやっとのこそで班が決まる。


“やっ…と決まったよ。”


「班が決まりましたので、各班で今から配るプリントに記入して私のところに提出してください。」


 ガタガタと机を動かし何も問題なく班ごとが集まってた。私は胸を撫で下ろし自分の班に行く。


「シザ。お疲れ。」


 同じ班の井下は椅子に座るように手で合図する。


「ありがと。さてと班長は。」


 ペンを持ちプリントに目を通し班に尋ねる。


「シザはいいよ。シザ以外で決めるから委員長と班長って大変だから。任せて!」


 嬉しくて井下に抱きつく。ガタッ!


「おっと。シザ落ちるって!」

 

 井下は私が抱きつく勢いで椅子から落ちかける。


「ごめん。嬉しくて。」


 グループの皆はプリント見ては意見を言い合いあっという間に決まる。周りを見るとなかなか進んでなさそうな班に気づき席から立ち上がりその班の所に行く。


「一班どうですか?」


 一班の所に行くと女子が私に何かを訴えてる目だった。そっと机の横にしゃがみ込み座る体勢をとる。


「今何決めてますか?」

「今は見物の所なんだけど男子が。」


 女子は班の男子をちらっと見て答える。


「お前。俺たちのせいにするなよ。」


“はぁ。なるほどね。”


 一班は男子の中でも浮く存在の吉永よしなが純也じゅんやがいた。見た目は人気がある顔つきだが口が悪いせいで女子達でも好む好まないで分かれていた。


「一人ずつ行きたいところ言ってみた?」

「ううん。だって。」


 女子は吉永をちらりと見ながらコソコソと話す。


「じゃぁ。みんなの意見を聞いて決めていかない?まず女子から教えて。」


 私の言葉が気に入らなかったのか吉永は突然立ち上がり私を睨みながら上から見下ろす。


「どうしたの?」


 私は平然を装い訪ねる。吉永は私の二の腕を掴み立ち上がらせ、その様子を見ていたクラスは凍りつき誰もが黙って、ただ見ているだけだった。


「お前。委員長だからっていきんなよ。先に俺たちの意見聞くんじゃねぇの。」

「意見あるなら話ししてください。それと手。離してください。」


 とどめを刺すような口調で言い睨む。吉永は観念したのか掴んでいた腕からそっと手を離す。離すと同時に私はほっとする。


「早く決めないと。女子はどこ行きたい?」


 すぐにプリントに目をやり意見を書き留めていく。


「私はここ行きたい。」

「うん。男子は?」

「あっ。えっと。吉永どうすんの?」


 男子は言葉を詰まらせながら吉永に訪ねる。


「どこでもいい。女子が行きたいところでいい。」


“どこでもいいとか結局そうなるんだろうと思ってたけど。”


 吉永は荒っぽく椅子に座ると足と腕を組み不機嫌な態度をみせる。


「女子は決まったから後は男子の行きたいところ書いて提出して下さい。」


 吉永の方を見ると目が合うがすぐに逸らされる。その後も無事全班のプリントを回収できクラスメイトと解散し、そのまま回収したプリントを職員室に持っていく。職員室から出て腕時計を見るとバイトの時間が迫っていた。


 急いで学校を出るとバイト先まで走る。バイト先は雑誌でも取り上げられた事がある。


『REDORAU.CAFE&BAR』

(レドラウ カフェアンドバー)


 昼は喫茶で夜はバー店。一人一人の制服が違う事で人気を集め、老若男女問わず多くの人が来店していた。なんとか間に合い更衣室で着る制服を出しハンガーラックにかける。そこに母の友達で店長の深見ふかみ百合子ゆりこが更衣室に入ってくる。


「井梅ちゃん、そんなに慌てなくても大丈夫だよ。」


 眼鏡を外し手に持っていた眼鏡ケースに入れる。


「ハイ。すいません。準備にかかる時間が…。 」

「色々手間かけてごめんね。」

「そういうつもりで!…言ったのではないです。」


 バイトの時だけ普段しない化粧と髪を整える為鏡台に座り、化粧と髪を一つに束ね姿を変える。


「そのままでもいいんだけど安全性を考えてね。伊達眼鏡負傷したら教えてね。」


 学校でしている眼鏡は伊達眼鏡。バイトする時に店長から学校に通ってる私の安全を考えて頂いた伊達眼鏡。理由は何年か前にお客様が一人の女子にしつこく迫って事件になりかけた事がありその影響でここの従業員は全員姿を変えていた。 私の制服といえば黒のワンピースで袖部分は白で無地、スカート部分はエプロンと一体化で全体的にカジュアルスタイル。最後に首襟に色鮮やかなスカーフを巻く。


「素な井梅ちゃんも可愛いけど化粧すると大人な女性でかっこよくなるんだね。」


 店長は笑みを浮かべながら近づいてくるとスカーフを直す。


「これでヨシッ!さてと店内チェックしてこようっと。井梅ちゃん着替えたらホール直ぐ入ってくれる?」

「はい!」


 返事すると店長は手を挙げて更衣室から出ていく。制服の姿になり鏡の前でチェックする。


「ヨシ!今日も頑張ろう!」


 鏡に映った自分の姿を見て気合をいれる。準備ができホールに入るとそこは学生や社会人の人達で満席だった。ホールに入り笑顔でお客様を迎える。たまにお客様から声をかけられたりするが仕事上お客様との娯楽は禁止。最初はその場で断る事が出来きず先輩のフォローでなんとか今はお客様に失礼ならないように返答する事が出来るようになった。


 カラン。


 店のドアが開き四人の男性が店に入店してきた。顔見るとそこにいたのは以前合コンで私に無礼な行動をした男だった。私は悟られないように男達を席まで案内する。


「お決まりになられる頃にまたお伺いさせていただきます。」


 早くこの場から消えたく少し早口で対応してしまう。


「ねぇ。君、名前なんて言うの?」

「…お客様。大変申し訳ございません。今の質問にはお答えすることできません。ですが精一杯接客させて頂きます。」


 男達に笑顔で言うと男達は頬を赤らめにした。


“男め!あの時と今の私は一緒ですけど。”


 その男にすごく腹が立ったが即さま立ち去り仕事をする。暫くして男達の注文を持って行く事なり気が進まないままテーブルに飲み物を運ぶ。


「お待たせいたしました。」

「あっ。ありがとう。君、井梅さんって言うんだ。」


 男は肘をついて私の名札を見て訪ねてくる。


「ええ。ホットコーヒーのお客様は。」

「俺!俺!待ってたよ!」


 男は手を挙げてアピールするような態度を出す。


“軽!あの時水かけられて正解だったかもね。あのまま親しくなってたら痛い目にあうのも時間の問題だったかも。”


「あ〜仕事探さなきゃ。」


 私に水をかけた男がコーヒーカップを持ちながら愚痴る。


「お前があんな事するからだろう?一番見られたらいけない人に見られたからな自業自得だな。」


“うん?仕事?”


 コーヒーをテーブルに置きながら話を聞く。


「井梅さん聞いてくださいよ。俺、仕事クビなったんっすよ。女の子に水かけたから。けど女の子も女の子だよ誰一人番号教えようとしなかったし。」


“仕事クビなったんだ。そこまでしなくても。”


「大丈夫ですよ。直ぐにいい仕事見つかりますよ。」


 満面な笑顔で言うと男達はまた頬を赤くした。


「…なんか元気出てきた。俺、今日からがんばろ!」


“嫌味込めて言ったんだけど…。”


 礼をして去っていくが無性に胸あたりがムカムカとしていた。その後も何回か声を掛けられたが笑顔で交わしなんとかバイトを終えた。 バイトでの化粧を隠すためマスクをし、帽子をかぶるとバイト先に置いてるいつものジーパンとカーディガンを羽織い裏口から店を出る。


 帰り道をゆっくりと歩いてアパートに着くと母親の井梅いうめ香菜子かなこが玄関先で女の人と話をしていた。その様子はとても異様な雰囲気に慌ててアパートに向かい玄関までいくと母は私を見て血相を変える。


「あなたが絢桜ちゃん?」


 女の人は振り向き私を見るが母は困った顔して首を振る。


「ねぇ。私と一緒に来て欲しいんだけど。」


 返事をしないでいると女の人の顔つきが変わる。


「あなたのお父さん。絢桜ちゃんの話しかしなくてだから迎えに来たの一緒に暮らさない?」


 首を振り女の人に怒りを込めて睨む。


「こんなボロアパートよりもっといいとこだよ。」


“ボロアパートで悪いですか?”


「どんな選択を私に与えても私は母と暮らします。なので帰ってください。」

「そう。わかった。」


 女の人は私の肩にわざとぶつかりそのまま悪気もなくカツカツと踵の高いヒールの音を立て帰っていく。母は慌てて私の側まで来る。


「大丈夫?ごめんね。」

「大丈夫だよ。…ってかお父さん嫌な女の人に捕まったね。お母さんと私を捨てた罰だね。」


 母は私の肩を撫ぜながら苦笑いする。怪我はなかったけど当たった肩に残る不快な思いはしばらく心に留まったままだった。



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