第89話
「もしもし、まきちゃん」
「まさ君、ハロー」
「奈美さんね、明後日帰国するよ。日本時間のしあさって」
「そう! 良かったね。奈美さんの旅の終わりね」
「うん。良かった」
「まさ君のおかげよ。奈美さんの一生の中で、忘れられない思い出になったはず」
「まさ君、なかなかやるじゃん」
「いや、僕は普通だったよ、いつの時も」
「まきちゃんが、僕に降り積もらせた愛が奈美さんに降りかかったんだよ」
「愛は配る。まきちゃんの言う通り」
「そうね。そして愛は感謝。配っても配られても」
「そして、相手の中に自分を見つける」
「出会った頃から、まきちゃんに教わってきた。その通りだね」
「誰にでも通用するよ。世の中の人、皆に」
「さて、私も準備するかな」
「何の?」
「まさ君のところへ行くのよ。言ってたでしょ」
「本当?」
「うん。本当」
「過去の未来が今になってるの」
「そして今も、明るい未来の今のための今なの」
「いつ来れる?」
「しあさって。オランダ現地時間」
「ホント?? 冗談じゃないよね?」
「私、美しい嘘しかつかないわよ」
「十分、美しい嘘に聞こえる」
二人して笑う。
「そう、丁度しあさって、コンセルトヘボウでブラームスのピアノコンチェルト第2番とチャイコフスキーの交響曲第4番のチケットがあるんだ」
「奈美さんと行く予定だったコンサート」
「あら、他の女と約束したコンサートへ私行くの? 流用?」
「浮気かな?」
二人で笑う。
ーーーーー
「奈美さん、おはようございます」
「加藤さん。真由美さんから聞きましたよ。明後日真由美さんが来るんですって?」
「はい。どうやら奈美さんに話すくらい、美しい嘘ではないようです」
奈美さんも、僕も微笑む。
「僕はこれから仕事ですが、昼食は一緒にとりましょう」
「花市場の近くの、仔羊の美味しいお店に行きます」
「はい。私は荷造りしています」
「少しばかり格式あるところなので、ラフじゃない洋服がいいです」
「わかりました」
「そして、夜はRuthの店でご馳走を食べましょう」
「ご馳走?」
「ドーバーソウルのディナーを準備してもらいます」
「最大級のドーバーソウルを頼みますから、お楽しみに」
「わあ、本当ですか? 楽しみです!」
「ムニエルではなく、Ruthの得意なフルーツソースかけを頼みます」
「フルーツソース?」
「最初の一口二口は不思議な感覚ですが、きっと奈美さんなら喜んでくれる味だと思います。お楽しみに」
「はい」
「そうそう、大家さんが、宿賃は込み込み250ユーロでいいと話していました」
「そんなに安く? 一応手元にお宿代、500ユーロほど準備しておいたのですけど・・・」
「いいんです。言い値ですから」
「ありがとうございます」
「お礼だったら、大家さんに」
「そうだ、昼食ですけど、アムスで日本製品お土産ショップを経営している、ミカさんという僕の友達も呼びましょうか?」
「彼女、子羊大好きなんです」
「はい」
「では、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そう、もうすぐまきちゃんと、こんな関係になる。
愛で、二つの肉体に宿る一つの魂。
一つの魂、もうすぐここへ。
未来が嬉しい。
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