第82話
コート・ダジュール国際空港に到着。
初秋のリビエラ、涼しく爽やかな乾いた風。
チェックインを済ませ、ビジネスラウンジへ。
アムスでは、スキポールから車なのでアルコールはダメ。トニックウォーターに、おつまみはイベリコ豚の生ハムと種々のアソートチーズ、ナッツ類。
東京は深夜。
まきちゃんは起きているかな?
「もしもし、まきちゃん」
「ボンジュール」
「まきちゃん。冗談抜きにこっちに来れるならおいでよ」
僕は極めて普通に誘う。
「そうねえー、お父さんもいいよって言ってくれたし」
「でも、最初っから長期滞在は無理かなー」
まきちゃんは、カラカラ笑って上機嫌。
「うん。まずは気楽に、身軽においでよ。何もかも準備するよ」
「あら、嬉しい! 何もかも!」
「私、それなら行くわよ。オランダに、Tシャツ短パン姿で」
「それはそうと、もし来るとしたらどれくらいいられる?」
「生理が止まるまでかな?」
「まきちゃん。よくそんな面白い冗談、さらりと話せるね」
僕は、クスクス笑った。
やっぱり君だよ。未来を預ける素敵な人。
まきちゃんが話す。
「でもまだ行かないよ。もうひと仕事あるでしょ? 奈美さんの件」
「あとどのくらいが奈美さん帰国の潮時だろうね?」
「そう、まだ僕が個人的に、二つ腑に落ちないところがあるんだ」
「多分、奈美さんも同じところが気にかかっているんだと思う」
まきちゃんは話す。
「私にもわかるわよ」
「一つは書類盗難と渡辺さんの件」
「二つ目は、なぜ森下さんが体の痺れなど、体調、精神が壊されたか。でしょ?」
「そうなんだ」
「事の始まりは書類の盗難。それだけよ?」
「なのに、なんであちらこちら、国際的? というくらいまで会社さんとか国際組織さんが動くの? そして森下さんの健康も奪って……。犯罪よこれ」
「僕も不思議に思う。そして、僕まで……」
まきちゃんは厳しい口調に変わる。
「未だに自分たちのした過ちを正当化するための妙案を練っている。そのはずよ。だからまさ君にも」
「でもまさ君。深入りしない。まさ君はここまでよ」
「言ったでしょ。あとは森下さんと奈美さんとの問題よ。どこまで知りたいのかは」
「そして……」
「そして、何?」
僕は尋ねる。
「一番肝心なこと。正義や過ちは、会社やその組織さん自身がもう知っているという事。何もかも調べ上げているんだから」
「この盗難事件を調べている関係者達が、自分のしたことが正しいのかどうか、不憫な今の森下さんや奈美さんを見てどう思っているのか」
「人としてよ、人としての正義が自分たちにあるのか自問自答しているはずよ」
「少なくとも、私は正義だとは思わない。卑怯よ。やりっぱなし」
「会社さん達が、まだ悪魔の様な卑怯な考え方で逃げようとしているのなら、何も話は進まない」
まきちゃんの言う通りだ。
「まさ君、わかった?」
「この不遇な境地から立ち直るには、森下さんと奈美さんがどこまで頑張るか。場合により会社とこの件についてきちんと面と向き合って話し合うか」
「それは二人の問題よ。まさ君や私の問題じゃない」
「とにかく、森下さんの将来は、今のところ不透明だね……」
「私、森下さんから聞いたわよ」
「何?」
「科学ジャーナルを扱うみたいな会社から、編集・校正の仕事の誘いがあるらしいの。でもフルタイム勤務は無理らしくて今のところはダメそうだけど」
「脈がないとは言えない……。奈美さん、このこと知らないよ」
「まさ君、奈美さんに話しかけてみて」
「前に進もうとする心に、愛も未来も待っているの」
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