第79話
「奈美さんと話しした?」
「うん。森下さんと僕に共通する相関図がきちんとできたよ」
「でも、各々がどんな思惑で繋がっているのかは分からない」
「分かるはずないよ。まずはここまでだね」
「そうだね」
「絵葉書は?」
「そういえば、奈美さんがアムスに来てから一度きり、麻友さんから」
「それも不思議な話ね」
「うん。不思議」
「私が思うに、森下さんに関する出来事は、一旦掘り返すのやめよう」
「どうして?」
「奈美さんがアムスに行った目的は、自分探しの旅を終わらせることだから」
「奈美さんは、心がポジティブな方向に向かっているよ」
「よかった。こん詰めないようにしなきゃね」
「まさ君もこれ以上は踏み込まなくていいよ。あとは森下さんと彼女の問題」
「そうだね。二人仲良くこれからの将来を見据えることが大事だよね」
ーーーーー
「奈美さん。素敵なコーデですね」
「ありがとうございます」
黒コーデ。トップスは黒に雪が降っている様なデザイン。黒のスカート、ローヒール。
楽しみにしていた喜歌劇セビリアの理髪師のコンサート。
14番のトラム。ミュージックシアター前で降りる。
幕が上がる。
舞台はスペインのセビリア。
スペインのセビリアで理髪店を営むフィガロは、散髪だけでなく、手紙の代筆や恋の取り持ちまでこなす街の便利屋さん。
ある日、アルマヴィーア伯爵から、町で見初めた娘、ロジーナとの恋の仲介人を頼まれる。
ロジーナを奪われまいと後見人であるバルトロが、自身がロジーナと結婚しようと企てる。
フィガロの戦略でロジーナに近づこうと、伯爵とフィガロが何度も変装してバルトロのいる家の中に侵入するなど、あの手この手と作戦を遂行。何度も失敗し、大笑いのドタバタ劇とが続く。
しかし、フィガロはついにふたりの結婚を成功させる。
バルトロよりも先に2人で結婚証書を書き、めでたく結ばれる。
ーーーーー
「楽しかったですね。喜歌劇の頂点ですね」
「はい。ユーモアにあふれる抱腹絶倒のオペラ、まさにそれ、ですね」
「お客さん。何度も大笑いしていましたね」
「僕らも、言葉は時々わからないところがあるけど、聞き覚えのあるメロディーライン、歌、そして絢爛豪華な舞台。最高でしたね」
「このフィガロとは、モーツァルトのフィガロの結婚と関連があるんですよね?」
「はい。喜歌劇フィガロの結婚は、このオペラの30年前くらいにできていたんですけど、実にいろいろな伏線が仕掛けられていて、一度観ただけでそのすべてを理解するのは難しいです」
「でも、僕らにも馴染み深い、天才モーツァルトの素敵な音楽がちりばめられて、何度か観ればわかる様になります。素敵なオペラです」
「加藤さん、私より音楽詳しい」
「この街にいると、より詳しくなります」
「そう、遅い夕食、何にしましょうか?」
「軽い夕食がいいです」
「じゃあ、セビリアの理髪師の舞台、スペインの料理。パブですが、美味しい店があります。ボリュームもまずまずありますが、中華ほどではないですよ」
「はい。そこでお願いします」
ーーーーー
「Two persons」
「アムスってびっくり箱の様な街ですね。小さな街なのに音楽、美術、料理など、いろいろな国のいろいろなものが詰まっている街」
「はい。アムスは世界で一番の他民族の街なんです」
「170以上の国から来た移民の住んでいる街なんです」
「170以上! すごいですね!」
「人種が違おうが、育った環境が違おうが、人は楽しいときには笑う」
「多様な価値観を受け入れあう」
「これが僕がアムスにいて思う、人類の基本かなと思います」
「そうですね」
「福祉制度も整っていて、移民の人たちには暮らしやすい街だと思います。ただし、もちろんオランダ国としては移民の増加は悩みの種であるという側面もありますが……」
「さて、何にしましょう?」
「イベリコ豚のミックスグリルと行きたいところですが、ヘルシーに魚介のパエリアにしましょうか?」
「はい。私もそれで」
「ワインは、パエリアに合う、スパークリングワインのカヴァにしましょう」
「お願いします」
「美味しい! パエリアとワインの相性も最高ですね!」
「ここのパエリアは絶品なんです。イベリコ豚も」
「加藤さん。菜食、菜食」
奈美さんは微笑む。
「奈美さん。ずいぶん明るくなりましたね」
「はい。毎日心が洗われていきます。もちろん、まだ辛いと感じる瞬間もありますけど」
「彼と療養所で二人黙ってうつ向いているより全然良かった」
「アムスに来て正解ですね」
「はい。加藤さんのおかげです」
「帰国の目処もたちそう」
ウエイターが近寄ってくる。
「How is everything?」
(料理はどうですか?)
「Everything is great, thank you.」
(すごく美味しいです。ありがとうございます)
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