第74話

一泊二日、イギリス出張。ブリストルでの仕事を午前中に済ませ帰路につく。


バース経由で、いつものストーンヘッジに寄る。


そう、麻友さんとここで出会った。



「もしもし、奈美さん」


「はい」


「今、帰りでヒースロー空港に向かう途中、ストーンヘッジに来ているんです」


「はあ?」


「今、奈美さん、どこにいます?」


「サンドイッチとミネラルウォーターを買って、街中をプラプラしてます」


「あの、奈美さん、もし時間があればちょっぴり家に寄って、僕に来ている絵葉書をもう一度見ていただけますかね」


「いいですよ。これから一旦戻りますね」


「すみません。よろしくお願いいたします」



20分くらいして奈美さんからの電話。


「どこかで見た文字だと言いましたが、思い出しました」


「彼の2ヶ月の入院中、閉鎖病棟で家族以外彼とは面会できなかったのですが、彼の担当心理士さん? からか誰かに、区役所にいくつか書類を受け取りに行くようにといただいたメモに書かれていた文字と同じです」


「たぶん……、いいえ、間違えないです」


「麻友さんの方ですね」


「はい」


「そう、そしてその女性の方は、話の途中で右手の人差し指を口に当てるのが癖だったと、彼からは聞いていました」


「ほぼ、間違えないですね」


「麻友さんですか?」


「そうです。そして麻友さんは僕に会う前に森下さんに会っていることになります」

「森下さんがアムスにいて、一時帰国してから帰ってこなかったところから森下さんと彼女との接点が生まれたんです。そして、なぜか僕にも……」


「真由美さんからは、加藤さんへ麻友さんたちから人心掌握術みたいなことを受けているかもしれないと聞いていました」


「今日、夕方5時頃にはアムスに戻りますから、夕食時にでもこの話をしましょう」


「はい」



ソールズベリーで少し遅い昼食。ピザにする。


食後、イングリッシュガーデンを眺めて街中散策。



イングリッシュガーデンは、ボーダーを決め、色彩を考え、一年草・二年草・多年草の特徴を生かすこと、そしてエクステリアに自然素材を使うことにある。


オールドローズ、ラベンダーやミント類、クレマチス、ルピナス、ギボウシやアイビー、雑草防止にリュウノヒゲ、ハナニラ、そしてウッドチップ。あくまで、自然を感じるように。


ギボウシ、リュウノヒゲなどは日本を含む東アジア原産。イングリッシュガーデンで欠かすことのできない素材。貢献している。



大聖堂ももちろん観光。

西暦1215年のマグナカルタが所蔵され、ヨーロッパで最も古い時計も置かれている。



ソールズベリーを後にし、A30で北上、A303、M3でヒースロー空港へ向かう。



空港のラウンジでくつろぐ。



「もしもし、まさ君」


「まきちゃん。こんばんわ」


「今どこ?」


「ヒースロー空港のラウンジ」


「あら、イギリス出張だったの?」


「うん」


「大変ね。奈美さんもいるし」


「大丈夫。彼女、海外旅行経験もあるしね。仕事優先だよ」


「実はさっき、奈美さんから電話もらったの」


「じゃあ、僕のスケジュールは見抜き見通しだ」


「ばれたか」


まきちゃんは笑う。


「そう、なんだかいくつかの点が線、面になって来そうね」


「麻友さん、もしかして本名じゃないかもしれないけど、彼女の存在でまさ君と森下さんが繋がる」


「これから奈美さんとの夕食でそのこと話そうと思ってる」


「麻友さんって、森下さんからとまさ君から、何かを確認する目的で接したのかな? 例えば森下さんの持っている情報、そしてまさ君の持っている情報」


「僕は企業秘密は別として、他人から勘ぐられるような重要情報は持っていないよ。森下さんは分からない。特許のデータを管理していたし、盗まれた情報もあるし……」


「それよ、それ」

「麻友さん、まさ君もその情報を共有していたかどうか確認してるんじゃないかな?」


「なるほど……、それはあり得るね。あくまで推測だけど」


「まあ、そういうことも含めて奈美さんと話して。ゆっくり紐解きましょう」


「うん」




ーーーーー




「Ladies and Gentlemen, we have arrived at Amsterdam, International Schiphol Airport, where the local time is twenty-five past sixteen.」

(ご搭乗のみなさま、ただいまこの飛行機はアムステルダム・スキポール国際空港に着陸いたしました。現地時間、午後16時25分でございます)


「奈美さん、今どこにいます?」


「アンネの家を今出たところです」


「今スキポールに着いたので、そうですね5時頃には家に着きますから、RuthのBarに行きましょう。夕食もRuthのところで」


「わかりました」


「いろいろ見えて来そうですね。天は正義の人を守ります」


「そう、奈美さんと森下さんを守りますから」



奈美さんは力強く話した。


「幸せな人は誰でも、他の人をも幸せにするでしょう」

「たった一本のロウソクがどんなに暗闇を否定し、その意味を定義することができるのかを見てください」


「アンネに教えてもらいました」

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