第5章

第67話 第5章

「所長、おはようございます」


「かとちゃん、おはよう」



「スペイン、お疲れさま。先方の担当者から連絡あったよ。素直で優秀な部下だって」


「また、近々飛んでいってもらうからな」


「分かりました」



「今日、俺は昨日来たお客さんのアムス観光をアテンドする」

「丸一日留守にするからよろしく」


「はい」



スペイン出張の復命書を書き上げ、イタリアに留学中の三上さん、そしてコンサルタントのShibとも連絡を取る。


僕のプロジェクト、仕事の塗り絵の旅はまずまずの出来栄え。


残りの用件をMonicに頼み、早めに帰宅する。



「Hi, Ruth」


「Hi, Masa. You're early today. 」

(マサ、今日は早いわね)


「I’m a little bit out of it today.」

(今日は少しボーッとしてる)


「What’s going on? 」

(どうしたの?)


「Nami-san will come to Amsterdam.」

(奈美さんがここに来るんだ)



彼女が来て、自分のプライベートな時間は割けるが、仕事や出張の際には時間を持て余すだろう。


Ruthの店も夕方4時から。


奈美さんが毎日入り浸る訳にも行かない。


Ruthにこれまでの経緯を話した。



「So, what do you think?」

(どう思う?)


「Oh sorry, I was spacing out. What did you say?」

(ごめんなさい。私もボーッとしていたの。何て言ったの?)



Ruthはこの話に深入りしたくないのだろうか?


森下さんはRuthの店にはあまり来ていなかった。もちろん、お互いをよく知る仲ではあったが。



「Ruth, what do you usually do when you are free?」

(ルース、暇な時はだいたい何してるの?)


「I usually go shopping with my friends.」

(たいていは友達と買い物に行くわ)


「I like to go to here or Rotterdam for shopping. There are many favorite shops there in Rotterdam.」

(アムス市内やロッテルダムに買い物に行くのが好きよ。ロッテルダムにはたくさん好みのお店があるの)



Ruthが微笑んで言う、


「Masa, you feel as if the clock has stopped.」

(マサ、時間が止まっている感じがするんじゃないの?)



確かに。奈美さんが来る。それだけの話だが、何かボーッとしていて、彼女対応の準備やストーリーが描けない。仕事とは訳が違う。



「As far as  Mina-san is concerned, she can do everything.」

(彼女なら、自分の思った事すべてができるはずよ)


「Don’t worry about it.」

(心配ないわよ)



メール受信。


まさ君へ


『こんばんは』


『奈美さんね、そっちにどれぐらいの期間居られるか知りたいみたいなの』

『宿はまさ君の下宿で良いとして、2週間くらいなら大丈夫かな?』


『長いかな? 短いかな?』


『そちらの状況がよく分からないの』


『今、電話大丈夫かな?』



「まきちゃん」


「まさ君。こんばんわ」


「僕の方では何日いても大丈夫よ。彼女次第」


「ひと月くらい居ても良いよ。部屋代はひと月あたり6万円でいいみたい。二週間なら3万円くらい。格安でしょ。B&Bみたいなもの。食事は朝食のみだけど」



「ありがとう。彼女ね、まさ君にたくさん話を聞いて欲しいの。まさ君からの言葉が欲しいの」


「僕との話は仕事時間外はいつでも。観光で来る訳じゃないけど、観光も必要かな?」


「そうね、アムスでの森下さんを巡る小旅行? みたいのができる様、まさ君の出張とかのスケジュールの混まない時期に組み込めたらいいね」


「うん」


「奈美さんの自分探しの旅だから、あまり私たちがどうこう言わないで見守るようにお手伝いしようね」


「そう、よくわからないけど、森下さんが取り巻かれた”きな臭い”話に出くわすかもしれないし……」



まきちゃんが、優しい声になる。


「まさ君に感謝なの」


「いつも優しいね、まさ君」



「僕は普通だよ」



「そう、大切な事伝え忘れないように」


「お互い、水平線を見て手をつなぎ歩いたね。”永遠”って二人で感じたよね」



「奈美さんが森下さんを思うのも同じ愛情なの。永遠なの」


「愛する事も、愛される事も永遠なの」


「愛さなかった、愛されなかったということは、生きていなかったことと同じなの」


「奈美さんと森下さん、そうならぬように……」

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