第65話
今日はAmsterdam Raiへ。事業で必要な資材類の展示がある。日本で言う、幕張メッセや東京ビックサイトの様なカンファレンス・コンベンションセンターのようなところ。
オリンピス・スタディオン(Olympisch Stadion)、アムステルダムオリンピックの陸上競技場のある通りから、Raiへ向かう。
人見絹枝さん。意外に知られてはいないが、1928年の第9回アムステルダム五輪での、日本人女性初のオリンピックメダリスト。
陸上女子800メートル走で2位となり、銀メダルを獲得。3年後に24歳の若さで病死した。
オリンピック800メートル決勝からちょうど3年後の同じ日に・・・
他界した後も、しばらく200m走、走り幅跳びの世界記録保持者であったらしい。
男子でも、織田幹雄(陸上・三段跳び)そして鶴田義行(競泳・200メートル平泳ぎ)、日本人初の金メダルもここ、アムステルダムが舞台であったということ。
「日本のオリンピックメダル。ここから始まった。歴史的スタジアム」
「頑張ったんだ、1928年当時。どれだけの苦悩を超えて力を振り絞ったのだろう。孤独と辛い練習を乗り越えて……」
「目が少し潤む」
「Does that mean you can deliver the parts within three months?」
(3カ月以内にパーツを引き渡してくださるということでよろしいですね?)
「When you say 「Asia area」 does that include Guam?」
(あと、おっしゃる「アジア地域」にはグアムも入っているのでしょうか?)
仕事を済ませ、オフィスに帰る。
「ただいま」
「Welkom thuis」
(おかえりなさい)
所長は会議中。今日の資材展を見に来ている日本からのお客さん対応。
Monicに託け。
「I’ll go to Aalsmeer Flower Auction from now. 」
(これから、花市場に向かいます。)
「O.K. 」
「Dag!」
(いってきます。)
「Dag!」
(いってらっしゃい。)
ランチは国立美術館近辺のBarで済ませる。
サーモンの入ったサンドウィッチ。トニックウォーター。
BarのBGMは You're just too good to be true (君の瞳に恋してる)。
You're just too good to be true
君は僕の理想の女性
Can't take my eyes off of you
君から目が離せない
You'd be like heaven to touch
君に触れられただけで天にも昇る気持ちになる
I wanna hold you so much
ずっと抱き締めていたい
At long last love has arrived
僕にも最高の恋が訪れたんだ
And I thank God I'm alive
神様に感謝しないとね
美術館広告。モディリアーニ展か……。食後少し絵画散策。
映画、モリディアー二真実の愛。機内エンターテイメントで見た事がある。
フィクション映画。
第一次世界大戦後の1919年パリ、モンパルナス。カフェ「ラ・ロトンド」には新しい芸術を生み出そうとするエネルギーが溢れていた。
成功者ピカソと、全く売れない異端児モディリアーニの姿がそこにあった。
パリの芸術家たちは、年に一度の美術コンテスト「Salon des Artistes」の出品準備に追われている。
優勝者には多額の賞金と保証されたキャリアが与えられる。
画商たちは今をときめくパリのアーティストたちの競演、特にライバル心をむき出しにするモディリアーニとピカソの一騎打ちを期待する。
モディリアーニは妻ジャンヌをモデルに絵を描くが、完成したジャンヌの肖像に瞳は描かれていない。
破滅型の芸術家モディリアーニ。彼の奔放な人物像、貧困の苦しみ。ピカソの執着。ジャンヌの弱さ……。
「どうして私の瞳を描かないの」ジャンヌは疲れ切ったボロボロの心で問いかける……。
モディリアーニがいう。
「本当の君が見えたら、瞳を描こう」
そして、「Salon des Artistes」の結末は……。
ーーーーー
「こんにちは」
「いらっしゃいませ、加藤さん」
「テイクアウトで、おにぎり二つと焼き鳥の塩4本下さい」
「お食事の方はどう致します?」
「もう済ましてきたので、大丈夫です」
「少しお待ち下さい」
いつもの日本食レストラン。
今日も、おにぎりを持って花市場を散策する。
僕にとって、プチ贅沢を超えた贅沢。
おにぎりがご飯、花が心の食べ物。
そういえば、不倫がもとで帰国したスタッフの渡辺さん。
どうしているのだろう……。
料理店には、ちらっつと見えた、新しい子が入ったようだ。
「はい、お待たせしました。焼き鳥1本サービスさせて頂きました」
「ありがとうございます」
「また、いらして下さい」
N231に入り、花市場へ向かう。見慣れた風景。
モナコ公国とほぼ同じ面積を持つ、世界最大の花市場。
サッカーグラウンドで言えば、125個分の大きさ。
何度目になるだろう。少なくとも50回以上は市場を覗き見にきている。
早朝のセリ・観光、ではなく、競り落とされた花達に会いにいく。
花から始まる花はない。
どの花も植物も、しっかり根付き、芽がでて、水をとり、肥料をごちそうに成長し、ようやくつぼみを造り、花を咲かせる。
花たちは頑張ってるんだ。
これから、この花達が世界中に訪れ、人々の心を和ませてくれる。
市場では、花の名前や学名だけでなく、花の品種名も覚える。愛しい花達。
所長達には、かとちゃんの花好きは趣味の領域を超えていると言われるが、趣味は趣味、仕方ない。
仲卸に友人がいるので、今日は仕事としてアポをとり、Tomecoの店を訪ねた。
「It has been a long time. It’s good to see you. 」
(お久しぶり)
「What are you up to these days?」
(調子はどう?)
「I’m doing well. Thanks.」
(元気だよ、ありがとう)
今日は、ユリの出荷の準備で忙しくしている。
少し手伝う。
僕は、花の梱包や出荷準備をTomecoから教わっている。
ときに、花はつかの間のヒロイン。
恋に疲れた人達は、色を並べて迷うだけ。
そのうち、新しい色で染められて、恋模様がときめく日を待つ。
みんなの前でがんばった花は、みんなが知ってる花になる。
みんなが知らない所でがんばった花は、神が知ってる花になる。
みんなが知らない所でがんばった愛も、神が知ってる愛になる。
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