第51話
「かとちゃん、今週末、スペインに飛べるか? バルセロナ」
「木曜にワーゲニンゲンの予定が入っているのですが……」
「確かに」
所長はPCのスケジューラーで僕の予定を確認している。
「金曜日は? 一泊二日で土曜の午前戻りになるが」
「なんとか。大丈夫でしょう」
「疲れが溜まっているだろう。今回に限りレンタカーは使わずタクシーで動くように」
「バルセロナは、結構車の運転荒いしな」
バイオ関係の仕事を依頼している機関。R&Dセクションだけでなく、新規事業のプロジェクトでも関係する大切な連携先。二度目の訪問になる。
「今晩、時間あるか?」
「Ruthのところですか?」
「そうだ」
「大丈夫ですよ」
「じゃあ、お互い夕食は済ませてからいこう」
家に戻りシャワーを浴びる。大家さんは留守。
絵はがき数枚。麻友さん、美咲さん……。
まきちゃんへ
『話したかもしれないけど、まだ女の子たちから絵はがきが来るんだ』
『2−3度ならまだしも、これまで続いていて、これからも続きそう』
『何だろう? ね?』
『麻友さんは口に指を当てる仕草が強く印象に残る子』
『美咲さんは学生時代の恋人の名前。かすかに心の琴線に触れる』
『何だろう?』
雅彦
まさ君へ
『単にまさ君に興味があるだけではなさそうね』
『マインドコントロール? みたいのかもしれないし……』
『ストーカーさん? じゃなさそうだし……』
『女心は色々で、どれについても分からないでもないけど、私ならしないよ』
『すなわち、何か普通じゃないことは確か』
『電話できる? まさ君の声が聞きたいの』
「もしもし、まきちゃん」
「まさ君、声が聞けてうれしい!」
「僕もだよ」
「まさ君、いろいろとありがとう。感謝なの」
「僕の方こそ、とびっきり素敵な時間、ありがとう」
「そう、どんな小さな事でも、腑に落ちないことは話してね」
「うん」
「調べてみるね。まず奈美さんに聞いてみる」
「彼女、占いとか心理とかの方面に通じているから」
「森下さんが変わっていく過程にも、女性の影があったみたいだし」
「二、三日待ってて」
ーーーーー
「I’ll have Amstel beer, nasi crocket and Crispy duck with Cointreau en orange sauce, Alsjeblieft.」
(ビールとクロケット、北京ダックのコアントロー&オレンジソース、お願いします)
夕食は行きつけの中華料理店で済ます。
各国に中華料理店は多いが、個人的にオランダの中華のテイストが一番僕の口に合う。ただし、一人前のボリュームが多く、残す事もままある。
キッチンからオーナーが出てきた、
「Hi, Masa. It’s been a long time. How have you been?」
(お久しぶりです。元気でおられましたか?)
そういえば、ここには、半月以上来ていなかった様な気がする。
「I'm pretty busy at work these days, but otherwise, everything is O.K.」
(仕事はかなり忙しいけど、それ以外は順調です)
「That's nice to know.」
(それは良かったですね)
「What's new with you?」
(何か変わったことあります?)
「Not much. 」
(何事もありませんよ)
オーナーは笑顔でキッチンに戻っていった。ほんの少しの会話のキャチボールがここち良い。
何事もない、それが一番いい。
ーーーーー
「Hi, Ruth.」
「Hi, Masa」
「Masa, Could you enjoy Japan?」
(まさ、日本はどうだった?)
「I enjoyed very much with my girlfriend for three days.」
(三日間、彼女とすばらしい時間を過ごせたよ)
「Eating together.」
「Talking together.」
「I wish I could spend more with my girlfriend.」
(もっと一緒にいたかった)
「She are very kind, cheerful……」
(彼女はとても優しくてとても明るくて……)
「I love her very much.」
「Great.」
(良かったわね)
「Ruth, I’ll have a Chablis and assort cheese, please.」
(ルース。シャブリお願いね。あと、チーズのアソート)
青山でまきちゃんとシャブリを飲んだ記憶を思い出す。
切なさを殺せない……。
「I wish I could spend more time with her……」
(もう少し彼女と過ごしたかった……)
Ruthは強い口調で、
「Never complain.」
(不平を言わない)
そう、今回日本に帰国できただけでも優しさだ、感謝だ。
「Masa, the purpose of life is a life of purpose.」
(マサ、人生の目的は、目的のある人生を送ること)
所長も同じような事を言っていた。
「The most important thing is to enjoy your life, to be happy, it’s all that matters.」
(何より大事なのは、人生を楽しむこと。幸せだと感じること、それだけ)
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