第47話
「東京着は6時頃ね」
「うん。夕食と・・・」
「夕食と何?」
まきちゃんは涼しげな顔で尋ねる。
「夕食とね、品川あたりのホテルで……」
「……いいわよ。ショートステイでしょ」
「フライト、午前1時10分だもんね」
静かに、うたた寝を始めるまきちゃん。
電車の音と車外の光と影の中、僕とまきちゃんの未来が揺れる。
可愛い寝顔、つないだ手のぬくもり、あどけない微笑みを僕は預かる。
かけがえのない未来を一緒に見つめていく人が隣にいる。
駅前で綺麗だったので買った花束。まきちゃんは夢の中。
花束のスターチスが話す。”永遠に変わらない、途絶えない記憶”
スプレーマムが話す。”逆境も平気、清らかな愛”
僕も話す、”今、君は素敵だよ”
ーーーーー
「まさ君……」
「起きた?」
「うん。起きたの。眠っちゃった、少し」
「温泉が効いたみたい」
「神経痛治った?」
「まさ君、冗談すごくうまいね」
片思いだった人が住んでいた駅を通過する。ほろ苦い想い出。
最後に交わす言葉もなかったし、すれ違った心のまま……。
「まさ君、どうしたの? ぼーっとして。昔の彼女でもいたのかな? この辺に」
まきちゃんの勘は鋭い。冗談抜きに第6感が強い子だと思う。
「時のすれ違いね。まさ君と出会って気を引いた女の子に嫉妬しちゃう」
「でもね大丈夫。過去を見ないで未来を見つめているの。まさ君だけをねっ」
まきちゃんは、僕をまじまじと見つめる。
「品川で夕食ね」
「うん、そうしよう」
「まきちゃん、何が食べたい?」
「和食にしようかな? お寿司でもいいし。回るやつ」
「まさ君、またすぐ海外だから、今日は和食三昧」
まきちゃんは、映りゆく車窓の景色を静かに見ている。
「私の手料理でも食べさせてあげればよかったね……」
独り言のように呟く。
「今度の帰国は最悪二年後だよね。改めて聞くと、ずしりと辛いよね」
「ああ、とても辛い」
「まきちゃんに来てもらうしかないんだ……」
「まず、まさ君の身辺に起きそうな、きな臭い物事を明らかにして取り払わなきゃ」
「それが大方済めば、両親に話すの。行くよ、きっと、まさ君のもとに」
「そばに来て欲しい。待ってるよ」
「うん。まさ君を守らなきゃ」
「We will soon arrive at Tokyo terminal……」
僕は、優しくまきちゃんの肩を抱く。体がかすかに震えている。
まきちゃんは手帳を取り出し、今日が最後の大きなハートマークを涙目で見つめる。
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