第42話

「ひとりで見る夢はただの夢、二人で見る夢は現実になるの」


ワイングラスをくゆらせ、36FのBarから大東京の夜景を眺める。



まきちゃんが神妙な顔になる。


「どうしたの? まきちゃん」


「いい、私の話を聞いてね。まさ君への忠告。……だまされない事」

「だまされたら、二人で見る夢が叶わないの」


「とても深刻な問題よ」

「第二の……」


まきちゃんが言いたいのは、森下さんという言葉だとすぐに分かった。



「あのね、まさ君優しすぎるから、いろいろなところで、いろいろな人の手助けしているでしょ」

「仕事はもちろん、プライベートでも」


「例えばバスや電車に遅れた人を車に乗せてあげるとか、他にもいろいろ……」

「そういう人たちに気をつけて」



「まきちゃん、どうしてそんな事を知っているの?」


「よくある手よ。そしてその人たち、本当に日本人?」



「そう聞かれると、よくわからないよ。多分日本人だと思うけど……」

「そう、何より、日本語で書かれた絵はがきを送って来るから日本人」


「夕食をご馳走したり、RuthのBarにきて一緒に飲んだ子もいるし」

「ただ、僕は住所を知らせていないのに、絵はがきを送って来る子もいる……」


まきちゃんは一回軽くうなずいた。


「ね、まさ君のその子たちへの関心度合い、そういうレベルでしょ」

「絵はがきはメールに比べて存在感、インパクトがある。メールは電子媒体で記録に残る、つまり使用を避ける」


「情報提供者かも知れないのよ。その女の子たち。気をつけて」


「情報提供者?」


「そう。聞いた事ない?」


「ない」


「やっぱり」


「まさ君、森下さん同様、情報提供者にマークされ始めている」

「森下さんの彼女から聞いたの」


「森下さんの彼女から?」

「なぜ、まきちゃんが森下さん、そして森下さんの彼女のことまで知っているの?」


「伊達にまさ君のこと、日本に居て守っているんじゃないんだから」


僕は尋ねた、


「なんで僕がそんな目に会わなければいけないのかな?」


「端的に言うと、狙われている理由が分からないのよ。だから厄介なの」

「いい、これから私は恋人、兼プチ探偵よ。森下さんの彼女、奈美さんも協力してくれる」


「何かがまさ君に起こり初めている、森下さんには起こったのよ。その何かが今のところ分からない。誰にも、私たちにも」


「探りましょう、一つ一つ丁寧に問題の種や芽を取り捨てて整理して行くの」

「まさ君を守るから。ちゃんと守るからね」



正直、今の僕は狐につままれたような気分だ。


まきちゃんは、何をどこまで知っているのだろう……。

何がどこまで分からないのだろう……。


ヨーロッパで自由に働いている僕には何も知らせぬまま。森下さんの彼女とまでコンタクトしていてくれて……。


「ありがとう、まきちゃん」

「僕に、今わかっている範囲でいいから、その問題のイントロダクション教えてくれるかな?」



まきちゃんはいつもの穏やかな顔になる。


「部屋にあるよ」


まきちゃんは、カードキーを手にする。


「Shall we go?」

(部屋に行きましょうか)

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