第41話

メインメニュー。


僕もまきちゃんも牛フィレ。



「やわらかい。このフィレ肉。美味しいね」


「うん。美味しい。いきつけのアムスのBarのも美味しいけど、ここのも美味しい」


「オランダでは、なんて注文するの?」


「Ossenhaas, alstublieft.」

(牛のフィレ肉お願いします。)


「うふん。alstublieftがPlease、お願いしますね。」


「うん。フランス語はs'il vous plait、ドイツ語はBitte、イタリア語はPer favore、そしてスペイン語はPor favor」


「お願いします、どうぞいう言葉と、その国の数字、簡単な挨拶のフレーズを覚えるといいよ。会話はよく通じなくても親近感を持ってくれる」



まきちゃんは言う、


「つまり、感謝の言葉で、どこのだれかと話しても、その人との距離が縮まり、人としての暖かみが伝わる訳ね」


デザートは濃厚チーズケーキ ローストピスタチオアイス添え。



「贅沢だったね、今日の夕食」


「うん。明日から、またしばらく会えないからね」



コーヒーを飲みながら、


「あのね、まさ君一生懸命、仕事と私に集中しているけど、身の周りの動きにも目をくばってね」

「外から見た自分をもっと意識して」



まきちゃんは話を続ける、


「まさ君は特例で、いろいろなものに縛られず自由に仕事させてもらっているのよ」

「それは会社のため、自身のために良い事なの」


「周りの人、お世話になっている人に感謝してね。まさ君、意外にその感謝の心がちょっぴり欠けてる」



少し寂しそうに、


「私はね、縛られず自由にいるまさ君を縛りたくないの」

「だから今は、まさ君の元へいけないと思って……」


「でも私は、まったくまさ君のところへ行かない、のではなくて、行かなきゃならないという気持ちも勇気もあるのよ」


まきちゃんは急に声のトーンを上げて話し始めた。


「そう、変な噂があるの」

「まさ君のステータスや自由の中、発揮する能力を利用しようとしている人がいるって。あくまで噂だけど……」


「足を引っ張られるとか、そういう単純なものじゃなくて、もっと大変な事、今は言わない。気をつけなきゃならないの」


「スキがありすぎるのよ。鈍感だし、まさ君は……」


「私ね、今、離れていてまさ君のこと守るの。それが今はいいの」


ーーーーー


ウインドウショッピングをするまきちゃん。楽しそう。


可憐なステップ。ずっと見つめていたい。


まきちゃんは口には出さないけど、僕のことを心配したり、何度も悩んだり、傷ついたりしてきていたんだろう。


心の中で、まきちゃんに謝る。ごめんね。


しかし、僕を守る?って何からだろう。


”まさ君、鈍感だから?”



「ここからホテルまで歩こうか?」


「うん」


ホテルまで歩いて2〜30分くらいの距離、散歩する事にした。


まきちゃんと手を繋ぐ。


「お互い少し酔い気味だから、涼しげな夜風は気持ちいいね」


「うん。レストランからの夜景奇麗だったね。今、私たちはさっきの夜景の中」



二人して、もう少し飲みたい気分。


「どこかのBarに入る、それともホテルのBarにする?」


「ホテルのBarで良いよ。ただし、飲み過ぎない事。まさ君、酒豪じゃないよね?」


「僕は、飲むけど酒豪や酒乱じゃないよ」


「うん。お酒、好きなだけでしょ?」


「そう、厳選する」


まきちゃんは、なるほど、という顔でうなずき、


「私も厳選したでしょ」



ゆっくりと夜の散歩。


「残された夜は今日だけね。明日も深夜便だから、夜がない訳ではないけど……」



まきちゃんは、寂しそうな顔。僕も寂しい。


「明日も夜があるよ。いや、二人の夜を作るよ」


二人、はにかんだ。

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