第38話
「パスタ、すごく美味しいね」
「うん」
「私、本格的なイタリア料理のコースなんて初めて」
二人とも、ドルチェ以外同じコースを選んだ。
プリモピアット(第一の皿)、パスタは魚介のトマトクリーム、セコンドピアットは子牛肉の薄切りに生ハムの薄切りをのせ,バターでソテーしたサルティンボッカ。ドルチェは、僕はティラミス、まきちゃんはクレーム・カラメル(プリン)を選んだ。
「まさ君、本場のイタリアで食べているんだもんね。どう?」
「日本でもここの店のように、とても美味しいところがたくさんあるよ」
「どうして、本場のイタリア料理は皆美味しいって言うんだろう?」
「イタリア料理が美味しいのは、15世紀中ばから17世紀中ばまで続いた大航海時代に、世界中の食材がジェノヴァ、ベネチア、ナポリなどのイタリアの貿易港に集まってきたからと言われているんだ」
「そして、乾燥した空気と照りつける太陽が乾燥パスタの味を締めるんだ」
「トマトも、数千種類ある中で厳選された十数種類が栽培されてる。トマトは乾燥した大地を好むしね」
「海鮮素材は地中海の恩恵を受けている。食材の新鮮さ、豊富さには驚かされるよ」
「なるほどね」
「そう、あさっての丸一日フリーの予定どうしよう?」
「まさ君、海に行こうよ」
「海?」
「うん。南房の海がいいな」
「ビーチバレー?」
まきちゃんは笑った。
「海岸を独り占め、じゃなくて二人占めして、貝殻拾いや、たわいもない事話そうよ。大航海時代の話でも良いし」
また、二人して笑う。
「いいよ、海に行こう」
ホテルに戻ると、まきちゃんの笑み。
「幸せ」
「何?」
「まさ君といられる事」
お互いを確かめあって、こころ優しくなる。
昨日の彼女と今日の彼女、同じ人なのに違って見える。より優しくて。眩しくて。
会うたびに美しくなる。会ったのはついさっきでも、その間に美しくなる。女の子ってすごい。
まきちゃんは僕の腕の中、目を閉じて夢の中。
過去の我慢を洗おうとして、たどり着いた深い眠り……。
忘れてはいけない。僕がこんな風に、まきちゃんを抱きしめているときに、誰かがどこかで、悩みをかかえて生きている。
「森下さん……。何の病気だろう? どうしてあそこにいるのだろう?」
森下さんは病室で話していた、
「加藤君ね、何もする事がない、与えられない、社会で必要とされていないと感じることが一番つらいんだ……」
「自分自身の存在価値がわからなくなる……」
僕は少しきつく、眠っているまきちゃんの体を抱き寄せた。
自分自身の存在価値を確かめるように。神様がくれたこの愛を確かめるように。
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