ぬり絵の恋

第35話 第２章 最終話

「According to the latest weather report, it is fair in Liverpool, and the temperature on the ground is twenty two degrees.」

（地上からの連絡によりますと、リバプールの天候は晴れ、気温は摂氏２２度でございます。）

「Please be sure to take all of your belongings when you disembark.」

（お降りの際は、お忘れ物のないようお仕度ください）

「さて、リバプール。二度目の訪問」

ビートルズで有名なこの街。観光客も多く、アビーロード付近にも観光客が訪れていた。

「I want to take you to our photo.」

（写真を取って頂けます？）

「Sure.」

前回はアメリカの観光客さんの写真を取ってあげたりしたっけ。

「まきちゃん、今リバプールにいるよ」

「あら、リバプール？　ビートルズかなんかの追っかけが今回のお仕事？」

二人して笑った。

「今日はね、ピーターラビットの故郷、湖水地方に行くんだ。宿泊もそこ。初めて行くんだ」

「いいなあ。私、うさぎ大好きなの。愛車も La pin（ラ・パン）でしょ。フランス語でうさぎ。好きなの」

「跳ね回り癖のある、私をつかまえたまさ君はおみごとよっ」

「まさ君も仕事でウサギのようにぴょんぴょんだね」

「でもね、私もね、つかまえたよ、まさ君のこと」

まきちゃんは僕にハートと体（こころ）をくれた。そしてまきちゃんは、僕を得た。

恋はうさぎではなく、亀のようにゆっくりと。Turtle（亀）って言う車は売れなさそうだけど。

まずはボルトン入り、高速道M６２、M６１で一時間弱。

マンチェスター付近は大渋滞で、アポの時間にはギリギリ間に合うものの、車の進みが鈍い。

「After payment send vouchers at E-mail.」

（メールで領収書を送って下さい）

ガソリンは入れないが、ガソリンスタンドで仕事先へのプレゼントの花束を買って土産にした。経費扱い。ビートルズのCDもついでに購入。ドライブのお供。これは自腹。

「Oh, Mr. Kato, Welcome to my garden!」

（加藤さん。うちの庭園にようこそ！）

「It's a pleasure to meet you. 」

(あなたにお会いできて嬉しいです)

「It's my first time meeting a Japanese.」

（私は日本人と会うのは初めてなんですよ） 

ここでは、イギリス北部、スコットランドを含めたナーセリーについての情報・コンタクト方法に関する助言。小一時間のミーティング。

「Have a good day. 」

(よい1日を)

お互いの一期一会に心から感謝。

昼食は、どの国でも当たり外れのない無難な中華料理。ホワイトボイルド インディカライスとピンダーソースで味付けした鴨肉のプレート。ボリュームは他国のものよりやや少なめだが、普通に美味しい。

M６、Ａ５９０で湖水地方に向かう。

美しい！　美しい！　筆舌に尽くしがたい。

一度行ったことのあるノルウエーの森、湖にも似た風景。

済んだ空気。きらびやかな森と湖、優しい景色。

時間が全て止まっているかの様、自然のアート。神様が書いたであろう絵画の様。

どんな賛美の言葉も違う気がする。

信号待ちはないが、羊飼いが羊の群れとともに道路を横切る。車は２０分ほど待たされる。それもいい、それがいい。

まきちゃんに、ポター家でピーターラビットのお土産買って行こう。

お互いに、自分の幸せを相手の幸せに塗り重ねていくんだ。

二人で塗る、そうぬり絵。

この風景に、二人を重ねる。

湖畔の宿に入り、携帯を手にする。

『まきちゃん、ここのぬり絵はごく薄い透明に近いピンクにしておくね』

『また来るから。ちゃんとした色を塗りに、まきちゃんと』

まさ君へ

『うん。行くんじゃなくて、行っているの』

『未来完了形なの』

『未来のある時点で完了している。それ』

僕は返信、

『ポジティブな思考だよね。何々する、ではなくて、何々している・したと思うこと』

『これからの僕の癖にするね』

『未来に僕らは二人してここにいる』

まきちゃんからの注意、

『そう。でも行動する前から叩かれてしまうこともあるよ。気をつけて』

『それでも行動するのがほんとうの勇気』

『勇気を持つ時間の使い方は、そのまま命の使い方になるから』

『未来完了だよ』

『おやすみ、まきちゃん』

『うん、こっちはおはよう。いつも変ね（笑）』

『完了したね。今の私のハートを掴むこと』

『時計の針は日本が未来。７時間後のまさ君の未来』