第28話
「Shall I get you something to drink – tea, coffee, water or a soft drink? 」
(お飲み物をお持ちいたしましょうか。紅茶、コーヒー、お水、またはソフトドリンクがありますが)
「Did you find our offices easily?」
(オフィスの場所は簡単にお分かりいただけましたか)
オフィスに帰るとお客さんがきていた。秘書のMonicが対応している。
「誰だろう? 所長からはお客さんが来る予定は聞いていない。」
「おう、かとちゃん、おかえり」
「新規事業のコンサルタントのShib Hugeだ。君の右腕になる。」
「I'm Masahiko Kato. Pleased to meet you.」
(加藤雅彦です。よろしくお願いいたします)
「Pleased to meet you, too.」
(こちらこそ、よろしくお願いいたします)
「加藤君、いろいろな業務で、時間・空間的にも君一人では対応できない問題も出てくるだろう。そんな事情でコンサルタントを頼む事にしたんだ。」
「ありがとうございます。心強いですね。」
「好きなときに好きなだけ活用してくれ」
「ただし、彼の勤務時間は午前9時から午後4時までだ。時間厳守」
「わかりました」
「Shibは学術方面に明るい。オランダ語の資料・文献情報が容易く入る。力強い助っ人だ」
「ワーゲニンヘンに住んでいる」
「非常に助かります」
コンサルタント契約について、4時間ほどの長いミーティングになった。
「Shib, It’s almost five. Want to go out for a drink?」
(シッブ、もうすぐ五時だ。一杯飲んでいくかい?)
「Yes.」
「かとちゃんも大丈夫か?」
「いえ、書籍調査があって…。」
「じゃあ、後で合流しよう。先に行っている。今日は日本食居酒屋でいこう」
「七時位には行けるようにします」
ーーーーー
居酒屋に入ろうとすると店の近くの通りで日本人観光客の女の子が泣いている。
僕は声をかける、
「どうしたの?」
彼女が涙目で答える、
「カフェバーで怖い目にあって……」
なんだか事情は分からないが、泣いている。人助けだ。
「所長、一時間くらい遅れます」
「わかった、かとちゃん来るまでShibと飲んでるよ」
彼女は、朝から何も食べていないとのこと。一人旅するレベルなら昼食くらいは何とかなるものと思うが、カフェバー内で客同士が喧嘩するのをみてびっくりしたらしい。一時的にパニックになって、食事する店だけでなく人ごみも怖くなったようだ。宿泊のホテルにはレストランがないらしい。
「何か食べに行くかい?」
女の子は、まだ何か街に警戒心を持っている。名刺を見せると、少し安心したように、
「はい……。お願いします……」
日本人の口に合う中華料理店。僕はこれから居酒屋に行くのでジャスミンティーだけ。彼女には白のインディカライスとビーフケリー、ジャスミンティーを注文。インディカライスは柔らかめに、カレーは甘めにとボーイに伝えた。
彼女は涙半分で、
「とても、美味しいです……」と喜んで、また泣いて、そしてまた笑顔になった。
アムステルダム中央駅の近くのホテルまで、彼女を送った。
「所長、遅くなりました。」
「どうした?」
「ちょっと人助けを。日本の旅中の女の子」
「ハハハ、かとちゃん優しいからな。まあ飲もう」
「久保田のいいのが入っているぞ」
「人助けのご褒美かもしれないな」
所長、Shibそして僕で、和気藹々と酒の席が進んだ。
アムスの夜も更け、RuthのBarに寄らずに帰宅した。
ベッドに横たわる。
まさ君へ
『明日、男女友達と南房に行きまーす』
『海産物とか、浜辺の散歩、お花畑とか楽しみ』
『なんと!一泊するの。花火もするの』
『まさ君、私の男友達は私の事狙ってるのよ。心配でしょ?』
真由美
『P.S. まさ君、本当に一泊三日で日本に帰って来くるの? 土日は休みでしょ』
『それ、組み合わせたら三泊五日で来られるじゃない。私待ってる。要検討!』
「心配でしょ?」の一言が彼女らしく愛らしい。
『P.S.の追記だよ』
『距離って二人を離れ離れにするのかな?』
『まさ君といつも一緒にいるって想っているの、もうその時点で二人の間に距離なんてないよ』
『ね、安心ねっ』
真由美
まきちゃん、優しい。
僕を心配しなくていいよ。
僕は安心だよ。
三泊五日……。
日本国への土日利用はダメなんだ、ごめんね。
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