第23話

食事を済ませ、亀田さんをホテルに送りとどけた。


亀田さんのホテルのBarに誘われたが、丁重にお断りした。ホームステイ先まで来たので夕食をご馳走したが、あくまでそこまで。


明日から新規事業業務、そして駐在のための始動開始。


早くベットに入らなければならない……、しかし、まきちゃんとの成田での重ねた時間、シャワーの前にもう少しだけそのままに……。


RuthのBarへ。


「Hi, Ruth」


いつものシャブリ。チーズはアムステルダムオールドとゴーダ。


「We want to see everyday, but we won’t……」

(お互い会いたいのに会えない……)


Ruthは言った。


「So, you could probably find her feelings?」

(さて、あなた彼女の気持ちが分かったでしょ?)


「I believe, she is greatful to you.」

(彼女はあなたに感謝してると思うわ)


うつ向き加減の僕へ、ルースは少し心配げに、


「You have faced some trying time.」

(あなたたちは難しい時期)


「Everything O.K. now」

(今はそれでいいの)


Ruthは微笑んで、


「Masa, don’t jump the gun.」

(マサ、あわてない、あわてない)


カランカランと、もう随分の深夜なのに、Barの扉が開く。



「One person」

(こんばんわ)


「Hi.」

(いらっしゃい)


亀田さん!なんでここへ?


「Do you know her?」

(お知り合い?)


「Yes……」

(うん)



「大家さんに聞いたの。加藤さんの行きつけのBar」


Franceには個人情報、守秘してもらわなければ……。


「Is she a girlfriend of you?」

(お友達?)


「No, she is a girl who are traveling as a tourist.」

(観光で旅している女の子だよ)


「I’ll take a beer, please」


彼女はビールを注文した。


「もうお腹はいっぱいだけど、何かおつまみに良いものあれば教えて下さい」


「じゃあ、ビッターバレンを頼もうか」


「丸い小さな揚げ玉、ピンポン玉よりやや小さい肉団子に似ていて、中に引き肉と甘い香辛料ソースが入っている」

「オランダの歴史あるクロケットだよ」


「Ruth, Bitterballen, please」


揚げたてのビッターバレン、そして好みでつけるマスタード。


「これ、日本のコロッケの元祖となったクロケットと言われているんだ」


「本当?すごいすごい!」


亀田さんは話しを切りだす。


「加藤さんの彼女の話、もう少し聞きたくて」

「遠距離恋愛大変でしょ?」


「うん、世の中で僕たちだけがそうじゃないのが救いだけどね」


「近くにいても分かり合えない人たちもいるしね」

「男子は以外に鈍いのよ」

「変わるのよ、毎日毎日、女の子は」

「1日の中だって、澄まし顔、笑顔、そしてふくれ顔」

「女の子は一人でも色々な女の子なの」


僕は相打ちがてらに呟いた、


「彼女はとても綺麗になっていたよ、身も心も変わってた」


「彼女からみた加藤さんも似た様なものだよきっと」

「海外で大きな仕事をまかされ、自分に奢らず成長してるでしょ」

「彼女も加藤さんのたくましく変わった姿と心を愛してみて、あれっ?少し違う、と戸惑ったんじゃないかしら」


「ちょっとメールするね」


「うん」

「彼女に?」


「うん。彼女と会社」



池上次長殿


『無事アムスに着きました』

『次長のおっしゃられたとおり、新規事業は1からではなくゼロからのスタート』

『皆でプランニングした白地図に、ひとつひとつ僕なりの色をつけてお見せして参ります』


『よろしくご指導のほど、お願い申し上げます』


加藤雅彦



まきちゃん


『無事アムスに着いたよ』

『ありがとう、愛とぬくもりを』


『これからも、自分を愛せる自分になる』

『まきちゃんで、僕は動いている』

『必ず迎えにいくよ。そんなときがきっと来る』


『愛だけでは今はなにもできない』

『お互い、それが分かっているから辛いけど……』


『僕は、僕のできる最良のものを、まきちゃんに与え続けるよ』


雅彦



亀田さんをホテルまでタクシーで送り、僕もそのまま帰宅。


深夜1時半。やっと帰宅。

大家はとっくにお休みだ。


シャワーを浴びてベッドへ寝そべる。絵はがき2枚。

今さっきまで会っていた亀田さんと、橋本美和さんからだ。



拝啓 加藤さん


童話の中から飛び出したようなチボリ公園。最高でした! ディズニーランドのモデルになったという話も納得。


ハンブルクもすばらしい夜景だらけ! ハンブルク・スカイラインの絶景!

ブラームスの生誕地だったり、ビートルズが下積み時代を過ごしたりした街並。


ソーセージやハンバーグは超美味しいし、チーズのアソートも最高(山盛りには参った!)


ハンブルグ、堪能してからアムステルダムに向かいます!


麻友



そう、チボリ公園。ディズニーはディズニーランドの構想に、アンデルセンもここで童話の構想を練ったらしい。

夜のチボリ公園は眩い光と陰の織りなす美しい空間。僕はたまたま公園内の劇場で、運良くベートーベンの交響曲第7番を聞けたことも思い出した。


そういえば、亀田さんには気になる癖があった。日本料理屋でもRuthのBarでも、時折人差し指を唇にあてる。脳裏に残る仕草だ。



橋本さんからの絵はがきには、どうして牛の写真が……。この前の赤ポストの写真はイギリスから。牛の写真はここ、オランダからのもの?



前略 加藤さま


お元気ですか?


私は旅を終え、普通のOL生活に戻ってます(苦笑)。

真夏。爽やかで過ごしやすいヨーロッパとは違い、東京はご存知通りの暑さです……。


海外旅行に行けただけでドラマなのに、加藤さんに会えたのは奇跡です。嬉しかった。


さて、ちゃんと私の住所を書いておきますね。暇があればご連絡ください。


橋本美咲



二人の女の子からの、絵はがき達……。

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