第2章

第22話 第2章

「Ladies and Gentlemen, we have arrived at Amsterdam, Schiphol Airport, where the local time is now ten minutes past fifteen.」

(ご搭乗のみなさま、ただいまこの飛行機はアムステルダム・スキポール空港に着陸いたしました。現地時間、午後15時10分でございます)



「さて、アムス」、気を引き締める。


P3 Long-term Parking、車に乗り込む。まきちゃんに電話。

日本時間午前0時、繋がらなかった。


高速、A4に乗りアムス市郊外、ホームステイ先へ。

A10から降り、家に近づくと、日本人? らしき女性が、腕を後ろで組み家を見上げている。


「亀田さん?」


車を駐車スペースに止め、問いかけた。


「あっ、加藤さん! お久しぶり!」


「どうして此処にいるの?」


「メール見たでしょ。アムステルダムに行くって」

「観光は一段落したし、加藤さんにお礼方々ご挨拶しようかなと思って」


僕は驚きはしなかったが、オランダに帰国してすぐの事態、少し拍子抜け。


「日本に出張していたんだ」


「そうだったの」


「亀田さん、これからどこへ向かうの?」


「今晩アムスで一泊して、明日ロンドン・ヒースロー経由で日本に帰国するの」


どうやら、ハンブルクからロンドンへ行かず、わざわざ僕に会うためアムスに来たらしい。


仕方がない、


「一緒に夕食でも食べようか?」


「はい」


彼女は微笑んだ。


「オランダ料理、イタリアン、中華、和食、その他あるけど、何にする?」


「じゃあ、和食で」


トラム(路面電車)に乗り込み、行きつけの日本料理店に入った。



「おや? 加藤さんデートですか?」


店長がにこにこして話しかけてきた。


「そんなもんです」


と軽く挨拶した。


亀田さんは、微笑んで、


「加藤さんには恋人がいるんでしょ?」


柔らかな口調で質問して来る。


「うん、いるよ」


まきちゃんのぬくもりを思い出し答える。


まだ、ほんのさっきの日本でのこと。


「なるほどね……。加藤さん、世間の女子はほおって置かないわね」


「もしかして、オランダにいるの、彼女? もしかしてオランダ人だったりして」


「いや、日本にいる、日本人だよ」


「遠距離恋愛?」


「まあ、そんなもんだよ」


正直、僕は、意味がないか言葉だけ多い男女の会話は好まない。


「亀田さん、最初に何頼む? ビールでいい?」


「うん」


「店長、ビールといつもの升酒、お願いします」


「承知致しました」


亀田さんが驚いて、


「海外での和食って、結構お値段高いのね」

「よく考えたら、ヨーロッパで初めて日本食レストランに入ったの」

「何を頼もうかな……」


「鉄板焼きでいいかな、おごるからね」

「さて、どんな旅程だったんだっけ?」


僕は、男女の会話を避けるよう、先制して彼女のヨーロッパ一人旅の感想を聞く事にした。


「イギリス、フランス、コート・ダジュール、デンマーク、ドイツ。楽しかった」

「約一ヶ月、ヨーロッパの一人旅、堪能しました」

 

あちらこちらで見聞きした話の聞き役で、楽をさせていただく。


「亀田さん」


僕が話しかけると、彼女は箸をおいて、


「みんなに麻友ちゃん、と呼ばれているから麻友ちゃんで、お願いしまーす」


彼女は、少し酔いがまわってきたらしい。


「鉄板焼き、すごく美味しい!」


お互い若いとは言え少し疲れているので、値は張るが鉄板焼き。この店の看板料理だ、精もつく。ここのは最高、相変わらずの美味。


「渡り鳥ライン、どうだった?」


「加藤さんも乗った事あるんですか?」


「ああ、あるよ」


「もう感動ものですよね!」


「うん」


「船底にレール、列車丸ごと入るんですよ!」

「フェリーは風光明媚だし」

「もう、最高でした」


渡り鳥ラインはもちろん美しかった。でも僕は、デンマーク人の列車の売り子の女の子の、息を飲むほどの美しさの方が鮮やかに脳裏に残っている。その子のつけていたエプロンの色、模様さえ憶えている。



「麻友ちゃん、もう一杯ビール頼む?」


僕は、酔いが少し過ぎていたが、升酒を追加で頼んだ。


めずらしく、こころがお酒に飲まれたい気分。麻友ちゃんと一緒にいるせいではない。

まきちゃんのコーデ・香り、そして何よりぬくもりをまだ、鮮明に憶えているのだから。

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