第21話 第1章 最終話

朝食、何にする?


まさ君は?


「まきちゃん」


「あら、お上手ね。じゃあ夜食が過ぎたから、朝食抜きね」


「コンチネンタルにしようか?」


二人微笑む。


パンとバター、ジャム、ハム、チーズ、フルーツ、ヨーグルト。

シンプルなコンチネンタルブレックファースト。


「飛行機の離陸っていつ見ても飽きないね」

「まさ君も、行っちゃうんだね……」


銀の翼、離陸の見える窓際の席でお互い同じ方向を見つめ合っていた。

これから二人、恋も同じ方向を見つめ続けていけるかな?



「夏休みの申請、まだなんだ」

「オランダに帰ってすぐだけど、まきちゃんに会いに日本に帰ってこようかな」


「守れそうにない約束はしない方がいいよ」


まきちゃんは、神妙な顔をして、


「実はね、私、会社を辞めるの」


「えっ!どうして?」


「二度、通勤途中に貧血で倒れたの」

「通勤時間が一時間半くらい、意外に大変で……」

「お医者さんに、無理しないようにって言われたのがきっかけ」


「まきちゃんの家から本社は遠いことは知っていたけど、貧血で倒れたことは知らなかったよ……」

「体が一番大切だからね」


「うん」


まきちゃんとは恋心だけでなく、同じ会社の社員としても繋がっている。

社員同士という、家族に似た安堵感が崩れてしまう。


なんとなく、会社を辞めるのは貧血だけの理由ではなさそうな気がした。

まきちゃんとの距離が遠のいてしまわないかな……。


まきちゃんは誰にも渡したくない。


「まきちゃん、本当に本当なの?」


「嘘はつかないよ」

「いや、美しい嘘は好きだけど、会社を辞めるのは本当」

「まさ君への気持ちは変わらないよ」


澄みきっている彼女の瞳は嘘をついていない。


しかし、


「駐在なんだね……」

「4年だね……」


急に、震えた子犬のような目を伏せ、寂しげにまきちゃんは呟いた。


ーーーーー


二人、無言のまま足を進める。


途中、その足が一人分だけ。

もう一人分は、神様が僕に背負わせた……。


セキュリティゲート。


まきちゃんは、僕に、ちぎれるほど手を振る。

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