第20話

「もしもし、次長ですか?」


「ああ、加藤君。無事成田に着いたか?」


「はい、予定通り成田に着きましたした」


「ホテルでゆっくり休んで、オランダに戻ってくれ」


「はい、ありがとうございます」


少し疲れた腰を伸ばし、タクシーでホテルに向かう。



1Fのロビーのソファーで一息ついた。


まきちゃんはもうチェックインしているのだろうか?


「もしもし、まきちゃん。今何処にいるの?」


「女子会中よ」


「えっ?」


「まさ君の後ろにいるよ」


「まきちゃん!」


「おーっす。女子会へようこそ」


彼女は最高の笑みで僕のソファーの隣に座った。とても奇麗になった。白タイトスカート×白ブラウス、クリーンな印象を与えるオールホワイトコーデ。夏のお姫様と形容しても構わない。ロビーの皆も彼女に注目している。



「まさ君、チェックインしたの?」


「まだだよ」


「まきちゃんは?」


「まさ君にチェックインした」


「えっ?」

「まきちゃんが予約している部屋は?」


「まさ君と同じ部屋。体一つで来たんだから」


「まきちゃんのお母さんが、女子会の宿泊で予約したんじゃなかったっけ?」


「ウソよ。24にもなってお母さんにホテル予約頼む?」


僕はダブルのシングルユースで予約していた。

カウンターへ行き、慌てて二人で宿泊する変更手続きを済ませる。


二人して自然とロビーからの目線が隠れる場所、人影のない場所へ向かう。


二人黙って、静かに体を寄せ合う。

華奢な体を優しく抱きしめた。長い口づけ。


「どう?私に感謝?」


「うん」


「どうする?」


「スキンシップって大切だよね……」


「まさ君、自分自身、愛せてるよね?」


「うん、大丈夫」


「では、よし!」



静かに部屋のドアを閉める。


今度は、しっかりとまきちゃんを抱きしめる。



シャワーの後、初めてお互いを確かめ合った。


ーーーーー


まきちゃんは少し寂しげに話す。


「そう、この夏やっぱりオランダには行けないよ」

「ごめんね……」


僕は、まきちゃんの寂しい気持ちに追い打ちをかけることを承知で、9月1日付けの人事の件について話した。


「実は……」

「正式にオランダ駐在が決まったんだ」


まきちゃんはしばらく僕を見つめ沈黙していた。


「どれ位?」


「4年」


「4年?」


お互い目をそらして沈黙。



「まさ君。明日が見える魔法を教えてあげようか?」


「なに?」


「私の後に続いて、同じ言葉を唱えてみて」


「うん」


まきちゃんは呟いた。


「さよなら」


僕はためらいながら、


「さよなら……」


まきちゃんは笑顔で、


「さて、これからの新しい二人の物語を、どう料理するかよね」


「Starting Over、やり直し」


そして、恥ずかしげに、


「もう一度、ファーストステップから」

「信じさせて、まさ君のぬくもりで……」

「私に感謝して」


ーーーーー


「領収書はダブルのシングルユース分の金額だけで」

「但し書きは、宿泊費として、でお願いします」


領収書をみてまきちゃんは笑った。


「女子会の宿泊費として、じゃなかったっけ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る