第17話

日本で発表するためのプレゼン資料作成に取りかかった。


昼食は運河沿いのオランダ料理屋で、パンケーキのパネクッケンとゴーダチーズ。


パネクッケンはクレープのように薄く焼いて、ハムやチーズと一緒に食べるオランダの郷土食。美味しい。


昼食中も、PCと睨めっこ。


プレゼン資料を2日くらいでまとめあげ、所長に見てもらわなければならない。そして修正。期限は4日、ハードなスケジュールだ。


所長からは日本出張における細かいスケジュールの説明があった。

帰路の成田のホテルでのみ、夜9時以降フリーだ。夜9時から朝7時まで10時間ある。


「再度話すが、くれぐれも公私混同は許されないぞ」

「最終日の成田もホテルからは外出しないように」


と、僕に厳しい口調で念をおした後、


「森下君の例があるからな……」


所長は僕に聞こえるか聞こえないかという風に、神妙なおもむきで独り言を呟いた。


気になる言葉だ……。


ーーーーー


アムステルダム・スキポール空港、ビジネスクラスラウンジ。

宇宙特集の科学雑誌片手に、まきちゃんへ詩のメール。



Dear まきちゃん、



ー 宇宙 ー


アインシュタインは宇宙の一部を物理と数式で説明した


宇宙って光とエネルギーだったんだ


美しい方程式 E=mc^2



作曲家マーラーは交響曲で宇宙の一部を説明した


宇宙ってポリフォニーだったんだ


喜怒哀楽がちゃんとあるんだ



僕は宇宙の一部を愛で説明したい


眩く白く純粋なものだと思う


柔らかくて、爽やかなものだと思う


今、そのサイエンスに夢中なところ



僕の説明する宇宙


それって


君のことだよ



こんなんでいいかな?


雅彦



「To prepare for take off, please ensure that your seat belt is fastened tight and low.」

(まもなく出発いたしますので、お座席のベルトをしっかりとお締めください)


「すぐに帰るってくるよ」


大きく旋回し高度を上げていく銀の翼。

レンガ色に統一された屋根が精緻に並べられている、美しい光景。


この風景をまきちゃんにも見せたい。


いや、見せてあげる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る