第13話

「おはようございます」


「おはよう、かとちゃん」


所長の相変わらずの優しい声。


「かとちゃん、早く夏休みの計画出して」


「分かりました、2-3日中に」


僕はそう答えたものの、まきちゃんをこちらへ来るよう誘っているので、その結果次第だ。


オランダ、イギリス、そしてもう1カ国くらいの欧州旅行ができれば良い。旅程は10日間くらいになるだろうか。


日本時間、午後3時ジャストのお茶時間。こちらは始業前の朝7時。



『こんにちは、まきちゃん』


『夏休み、こちらへ来る事が出来るかどうか、今日明日中に連絡ください』

『こちらにいる間、ずーっとまきちゃんを守ってあげるからね』


雅彦


すぐに返信が来た。


まさくんへ


『遠い空の下で、ずーっと私の貞操を守っていてくれて、毎度ありがとうございます』

『そちらでも、このまま私の貞操を守ってくれるの?』


『まさ君、私がそちらへ行く件について、私利私欲を少し離れてみて』

『誰かの意見に耳を傾けてみて』


『実はね……、そちらでの私自身がよく見えないの』

『まさ君には私自身、どんな風に映るのかな?』


真由美


メールをみて少しの間、ぼーっとしていた。



「かとちゃん、今日は午後から私のお客様対応に合流してくれないかな?」

「日本の国の機関から、とあるお偉いお客様」


「いいですよ」


所長は少し緊張気味の口調で、


「今日のお客さんはかなりの要人だよ」

「肩書きによると、国内ではその人に会うまで扉を何枚もたたかないと会えないようなレベルの人」


「珍しく、スケジュールに観光らしきものはない」


「こういうアポは、何か我々に確実に伝え決めたい何かがある、さらに頼み事などがある、そういうスタンスのスケジュールだ」

「カバン持ちも2人来る」


「そんな大事な席に、僕が入って構わないんですか?」


「そこなんだ」

「通常、管理職である私一人で対応する案件のようだが……」

「加藤君もぜひ打ち合わせの一部に合流して欲しいとの、先方からの願いなんだ」

「そして、酒の席も」


「打ち合わせは、午後2時から始まる」

「かとちゃんは、オフィスに4時頃来て、この打ち合わせに合流してくれ」


「酒の席は、いったん7時頃お客様らをホテルに届け、8時からいつもの市内の日本料理屋だ」


「分かりました」


まきちゃんからのメールを再確認、少し肩を落とす……。

また、ぼーっとする。


まきちゃんとの、明日が見えない頭で精一杯。

今日は今日、足元のぬかるみのスケジュール……。


まあ、いいか。


こういう時は、物事深く考えない。意味追わない。

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