第12話

A12。Edeで高速を降りる。

ワーゲニンヘンに着いた。


ワーゲニンヘンは学園都市。日本人留学生も多い街である。

これと言った友人はいないが、夜の酒場では何人かと仲良くし、名刺も頂いて

いる。頂く、というより彼らが勝手に配りたいという感じ。


大学助手とか大学院生などが多いが、幾人かは、少し海外で研究していること

を自慢げにする。そういう方は、僕はあまり得意じゃない。


仕事は特許検索、資料コピー、さっさと済ませ、さて昼食。


昼食から、さすがボリューム満点のTボーンステーキはやめ、シュニッツエルの

美味しい店にした。

シュニッツエルとは、日本で言うトンカツのようなもの、豚肉のカツレツであ

る。これは日本人の口にピタリと合う。


オランダは、オーストリアでのシュニッツエルに比べ種類は少ないものの、シン

プルで美味しい。添えられるフリッツ(フライドポテト)の量は半端じゃなく

多いが。全て食べると、とんでもない高カロリー摂取となる。


仕事、昼食を終え、ワーゲニンゲンの植物園へ。

日本から手に入れたという様々なギボウシの品種達が、お出迎え。


シーボルトに代表される日本の植物コレクションが多い、ライデンにあるライ

デン大学植物園の次に、日本の植物の自生種や品種のコレクションが多いと思

う。


また、ここは、世界のバラの原種、中間素材のコレクションにも目を見張るも

のがある。バラの原種は、恐竜のかっ歩していた白亜紀にはすでに生えていたと

か。


現代バラが、四季に渡り美しく艶やかに花をつけるようになったのは、東洋の

バラの原種、Rosa chinensisの四季咲性を獲得したからである。


現代バラはこの原種の四季咲き性を、世界の異なる地域の様々なバラ原種、異

中間素材から長い年月をかけ作り上げられてきた。


まさくんへ


『異なる場所での異なる心でね、それでね、一つの恋の花を咲かせるのって簡

単じゃないよ』

『頑張ろうね』


『また今日も私を一人で寝かせるの?(笑)』


真由美


魔法使いのよう。今、僕が現代バラの成立について考えを巡らしていた心の呟き

を、見抜き見通ししていたようなタイミングでのまきちゃんからのメール。


『一人で寝かせるの?』の後に(笑)がなければ、僕が困惑するのを知ってい

るかのような心使い。魔性の女子の言霊か、ヴィーナスの愛の言葉か。


即返信は難を極める。よす事にした。

アムスへの帰路に向かう。


「また来るよ」


いつか、きっとここからまきちゃんにメールできる。

たくさんのバラの花言葉でも添えて。オシャレにね。


艶やかな、バラの海からゆっくりと遠ざかる。


ふと、まきちゃんの香り?


爽やかなバラのシトラス色の甘い香りが、僕の後を、駆け抜ける。


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