第6話

牧真由美。

あだ名は、まきちゃん。


会社の二年目研修で知り合った。


彼女の日本人形のような美しい顔立ちに、小柄なフランス人形の要素を足して二で割ったようなハッとする美しさ。

抱きしめたら壊れそうな華奢な小柄な体。ワンピースがよく似合う。

僕は男として当然興味を持ったが、アプローチはしようとは思わなかった。


自由を好む、何かに縛られたくない。


8日間一緒に研修している間、彼女は魔性の女とヴィーナス半々性格の女子と自分なりに嗅ぎ分けながら、やはり僕の心の核である場所のテリトリーには踏み込まれないように上手に交わしたはず、だったが、まんまと踏み込まれたらしい。

好きになった。


僕が缶ジュースや缶ビールを飲むときには、


「私も飲ませて」


と彼女は缶をとりあげ、口をつける。また僕が飲み、また彼女が飲む、といったゆっくりとした繰り返しで間接キスのようにして、僕を喜ばせる小細工を使う。

この手は中学生のときの彼女にもやられたが、気を引くにも引かれるにも悪くない方法である。

もちろん、お互いに好意があるという前提の証である。


また男子の勉強室、兼寝室に堂々と入って、冗談まぎれに、酔って横になっている僕の布団にするりと入り、華奢な体を寄せ、


「私でいい?」


と、真面目顔で耳元にささやく。


研修所での夜の飲み会は常に隣。

遅れて飲み会にいっても、彼女の隣は必ず空けてある。もちろん僕用だ。


僕は研修の最終日前日に、本社の国際法務で海外滞在の手続きに行くことになって、彼女は寂しいとつぶやいていたので、

僕が、


「まきちゃんの全ては心に刻むよ」

「マユミの木の花言葉だよ」

「まきちゃん、名前真由美でしょ」

「研修楽しかった。そんなんでお別れの言葉でいい?」


と話すと、


「事業部は違うけど、本社に来るときには必ず私に会いにきてね」

「絶対ね」

「絶対絶対約束よ」

「私もこの瞬間を、心にすべて刻むから」


そして、とびきりの天使のような微笑みで、


「はい、これ」

「電話番号、メアド、うちの住所」


「これ、僕の」


二人の胸に訪れたスピード。


ほんの一週間あまり、二人恋に落ちた。

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