その後の猪娘
「ダーリン! 待つであります」
「待てと言われて待つ奴はいねえ!」
夕刻、養蜂場の視察を終えたブローディは着替える間も惜しみ、ダッシュで廊下を走っていた。背後からは慣れないひらひらの真っ白なスカートをはためかせ、カミラが追いかけてきている。
「今日はラブラブ入浴デーのはずであります!」
「それは分かってる!」
幼いころから良く知っている屋敷を、四十七歳という年齢を感じさせずにブローディは駆け抜けた。
「なら待つであります!」
カミラはその後をスカートの裾を踏み、ずっこけながらも追い掛ける。ブローディとの距離はだんだんと大きくなっていった。
「今日は、ちょっと、延期しよぜぇぇぇぇぇぇーー!」
蜂蜜で有名なジャックス領にある領主の屋敷では、ほぼ毎日の恒例となった妻による夫捕獲作戦が執り行われていた。
「ふー、ふー。どこへ行ったでありますか!」
鼻息の荒いカミラが二階の廊下であらゆる部屋のドアを開けて逃げまくる夫の姿を探していた。
「この屋敷は広すぎるであります! まだまだ構造を把握しきれないであります!」
カミラは肩で息をしつつも、グッと拳を握りしめた。
「この程度で諦めるとお考えなのですか?」
カミラはふふっと不敵な笑みを零した。
その頃ブローディは三階の上の屋根裏で息を顰めていた。汗だくの額を腕で拭い、ふぅーと大きく息を吐く。
「上手くまけたか……」
ブローディは物置と化している屋根裏部屋の隅っこで床に寝転んだ。
「まぁ、捕まるのも時間の問題だな」
カミラが書類上妻となって一週間。まだまだカミラはアジャックス邸を把握しきっていなかった。
特に隠し扉、隠し通路はまだ知らない。
「もう少し落ち着いて話を聞いてくれればなぁ……しゃーねえ、今日はみっちりと話し合いをしようか」
ブローディは息が落ち着くのを見計らって、屋根裏部屋から姿を消した。
「あ、いたであります!」
ブローディが屋敷の廊下を歩いていると、前方からカミラが猛ダッシュしてくるのが見えた。
「ダーリン、おとなしくお縄になるであります!」
猪突の勢いで抱き付いてくるカミラに、ブローディは大人しく捕まった。
「あれ、逃げないでありますか?」
「まあな。こっちも好きで逃げてたわけじゃねえしな」
「そう、でありますか?」
きょとんと見上げてくるカミラが抱きしめている手を緩めた。
「ちょっとゆっくりと話し合おうぜ。風呂にでも入りながらな」
ブローディはニヤリと笑うが、カミラはきょとんとしたままであった。
浴室の前の部屋で、いつもなら着替えるために控える侍女を締め出し、ブローディはカミラの後ろに立った。櫛で綺麗に梳かされサラサラになっている艶やかな黒髪を一房手に取り唇を落とす。
「着替えならカナちゃんに手伝って貰うでありますよ?」
「まぁいいじゃねえか」
ブローディは鼻歌交じりでカミラのドレスを脱がし始めた。
後ろで縛ってある結び目を解けばするりとドレスが床に流れる。するとレースで飾った下着に包まれたカミラの柔肌が露見する。
透き通る白い肌にブローディの喉がなる。
「は、恥ずかしいであります」
「いつも見てるだろうが」
「い、いや、今日のダーリンは積極的でオカシイであります」
首まで赤く染まるカミラの苦情を鼻歌でスルーするブローデは、慣れた手つきでカミラを生まれたままの姿に変えていく。
「ず、ずいぶんと、なれているであります」
「俺がいくつだか知ってるだろ? これくらいは嗜みだぞ?」
ブローディは手際よくカミラの上半身を裸にし、最後の砦の下着に手をかけた。躊躇なく解かれたソレはブローディの手の中に納まってしまう。
恥ずかしさでカミラは胸と股間を手で隠しながら「は、はずかしさ倍増であります」と声を震わせている。
そんな隙に自らも全てを脱ぎ捨てたブローディはカミラの背に腕をまわし、浴室へと誘う。
「え、あの、ちょっと、そこは自分で、あの、いやん」
「いいから洗わせろって」
「だ、だめであり……あぅ」
ブローディによって泡だらけにされたカミラが真っ赤に染まった顔で悶絶している。
丁寧に指で隅々まで洗われ、カミラは借りてきた猫の様に大人しくなってしまっていた。
「なぁ、カミラ。風呂でお前の裸見ただけで年甲斐もなく元気になっちまう困った部分が男にはあってな」
ブローディはカミラの背中を優しく撫でつけつつ、話を続ける。
「いつもならここで俺も狼に変身しちまうわけだがよ」
ブローディの愛撫にも似た手つきに悶えるカミラは夢遊病の様にコクコクと頷く。
「まぁ俺も歳だし、何回も致せるわけでもねえんだ、これが」
惚けるカミラが「でも三人は」と言い募るが、ブローディはそれ以上しゃべらせないために唇を塞いでしまう。強く押し付け、小刻みに食むように、思うままに蹂躙していく。
思う存分味わった程の時間が経過した後、ようやくカミラの唇が解放された。すでに息を荒げているカミラの肩にブローディは腕をまわし支える。
「と言う訳でな、神聖なる子作りはちゃんと気合を入れた寝室で執り行うべきだと思うんだ」
いつもならカミラの誘惑に負けたブローディが欲望のままに若い肉体を貪っては本来の夫婦の営みの時間に息切れを起こしていた。カミラが若い事と、子供を強く欲しがっている義務感により、逆に押し倒される回数も増えていたのだ。
「で、でも……」
「数うちゃ当たる訳でもねえんだ。その事は理解してるだろ?」
火照った体の熱にうなされているカミラが不満げな顔を向けてくる。その事もブローディには分っている。
「俺だってな、お前を抱きまくりたいんだ。だがな、寄る年波ってのはアレでな」
そう言いながらブローディは愛撫を再開した。あられもない声をあげない様、カミラはぎゅっと唇を噛む。
「一緒に風呂位にはいるが、寝室まで我慢しろ」
ブローディは自らに言い聞かせつつ、カミラの耳を甘噛みした。
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