第14話 ジト目 (創作、現実)

 卒倒したアイザックに対して、ユウが『気付け』の魔法を使って意識を回復させたものの、やはり精神的ショックは大きかったようで、そのまま寝込んでしまった。


 彼がそういう状態になるということは、つまり、魔法でぱっと探し出したり、取り戻したりすることはできない、ということだ。


 俺達は宿屋の一室に集まり、何とか取り戻す方法がないものか知恵を出し合った。

 もちろん、この世界に防犯カメラなんてものはない。


 酒場限定での聞き込みは、さんざん実施したが、俺達が戦った男性二人は無関係だったし、装備をだまし取った、メイド姿の女性二人は初めて来た客だったようで、誰も心当たりがないと言われてしまっている。


 商業都市カイケーイは大きな街だ。

 人口も50万人を超えると言われており、人相の特徴を元に闇雲に聞き込みの範囲を広げたとしても、すぐに見つかるものではないだろう。


 と、ここでミキが手を上げて、提案をしてきた。


「あの酒場に、私かユウちゃんの杖を置いていて、誰か盗んでいこうとしないか、物陰に隠れて見ている……っていうの、やっぱり現実的じゃないよね……」


 彼女は、自分で言いながら、それが駄目な案であることを悟ったようだった。


「そうだな……そんな無防備な状態の品物なんて、誰が持ち去ろうとしたって不思議じゃない。あと、あの酒場でもう一回デュエルを仕込む、っていうのも無理だろうな。いくら何でも、同じ手口で、同じパーティーから装備を奪おうと考えるほど犯人はバカじゃないだろう」


 さすがに、俺も否定する。

 シュンも、フトシも、同様に頷いた。


 そのときだった。


「分かりました! 凄くいい案を思いつきました!」


 ユウが、キラキラと目を輝かせながら手を上げた。

 全員、彼女の秘策がどのようなものか、期待に目を向けた。


「私か、ミキさんの杖をこっそり置いておいて、誰か盗んでいこうとしないか、物陰に隠れて見ているっていうの、どうですか!?」


 ――数秒間、時間が止った。


「……えっと、それ、つい今さっきミキが言って、却下されたのとまったく同じなんだけど……」


 控えめな俺のツッコミに、ユウはきょとんとした表情になって、その後すぐに真っ赤になった。


「あ、あの、ごめんなさい、私、自分の考えに没頭すると、周りの声が聞こえていなくて……」


 彼女のてへぺろな可愛らしい謝罪に、一同から笑いが漏れた。


 うん、やっぱりユウは、何て言うか、天然で、愛すべき存在だ。

 それに相当な美少女だし。

 今、赤くなって苦笑した表情なんて、ものすごく可愛い……俺は思わずじっと彼女の顔を見つめていた。


 ふと何かの気配を感じて横を向くと……なぜかミキが、ジト目で俺の方を見ていた。

 俺は小さく咳払いをして、話題を元に戻した。

 すると今度は、元課長代理で、今は商人のフトシが、手を上げていた。


「まあ、これは一般論だが、盗んだ品物はどうするだろうか。この世界の常識は異なるかもしれないが、我々が元々いた世界では、使用するか、隠してしまうか、あるいは、換金するか、だ。使用するといっても、あれらはそうそう使いこなせるものでは無いのだろう? 隠してしまうならば、わざわざ危険を冒して盗まないだろう。ほとぼりがさめるまで、ということもあるかもしれないが……それよりやはり、換金する確率が高いんじゃあないだろうか」


「……なるほど、さすがは経験豊富なフトシさん。だったら、あの『何でも鑑定します』の店に行って見張っていれば、取り押さえられるかも!」


 シュンの声が弾む。


「いや、実際はこんな近場に換金に来ないかもしれないし、独自の闇ルートがあるかもしれない。見張っているのは時間の無駄だろうが、事情を話しておけば、それらしい品が持ち込まれたならば、取り置きしてくれるか、情報をもらえるかもしれん。いくらかの出費は覚悟しなければならないだろうが……見つからないよりはよっぽどマシだ」


「そうですね……じゃあ、そのあたりの交渉は、フトシさんにお願いしていいですか?」


 俺が素直にお願いすると、


「ああ、任せておきたまえ」


 と、上機嫌だ。

 おだてるとすぐに調子に乗るのは転移前と同じだが、今回に限って言えば、商人の彼はとても頼りになる。借りを作るのはちょっと癪に障るが、フトシに頼るしかなかった。


 善は急げ、と、早速鑑定の店に向かった。


 入店すると、午前中に杖を鑑定してくれた店員が、「あっ」と声を上げて、俺達の方を指差した。

 そしてその正面に立っていた、指差された俺達の方を見た三十歳ぐらいの女性が、一瞬遅れて、やはり「あっ」と声を出した。


 そしてそれは、ユウやミキが「あっ」と叫んだのと同じタイミングだった。


「システム課のミキさん、ユウさん!」


「「会計課のユリナさん!」」


 ――それは、俺達以外で、妖魔となっていない転移者との、初めての対面だった――。

 

**********

(現実世界)


 土屋が最新の話を更新すると、やはり真っ先に感想をくれたのはカワウソさんだった。


『投稿者:カワウソ 20歳~25歳 女性


 今回のお話、「ミキが、ジト目で俺の方を見ていた」っていうところをみて、思わず吹き出して笑ってしまいました。なんか、現実にありそうな話で。ミキちゃん、やっぱり私と性格似てるな、と思いました。あと、ユウちゃん、相変わらず可愛いですね。ヒロさんの本命なんでしょうね』


 これに対して、俺は、彼女がミキのファンであることを思い出して、すぐに返事を書いた。


『カワウソ 様


 感想、ありがとうございました、励みになります!

 実はこれ、僕のちょっとした現実の体験談だったりします。何となく、新人の女の子を「かわいいな」と思って見ていたら、同期の女性からジト目で見られていたっていう……。だいぶ前の話なんですけどね。現実世界では高嶺の花ですけど、せめて創作の世界では主人公に報われて欲しいな、って思っています。あと、主人公は、今は気付いていないかもしれないけど、実はミキのことも、ユウと同じぐらい、とっても大事に思っているんですよ」


 と、フォローした。


 最終的には作品自体をハーレム物にしてもいいかな、と思っていた土屋が、ミキファンの彼女にサービスのつもりで返信したのだった。


 翌日、土屋が会社に行くと、新人の優美は、まだ山川に叱責されたことを引きずっているようで、あまり元気が無かった。


 それに対して、同期の美香はハイテンションで、


「おはよう、ツッチー! 今日も、仕事、張り切ってがんばろー!」


 と声をかけてきた。


 土屋にしてみれば、訳が分からず、ただ、愛想笑いを返すのみだった。


****************

※土屋はいろいろ鈍感です。

※次回、盗まれた武器の行方、そしてヒステリックの、転移前の悪行が暴露されます(現実と重なる!?)

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