第13話 盗まれた経緯 (創作)

 俺達が伝説級の武器『インプレッシブ・ターボブースト』と『レクサシズ・アロー』を盗まれてしまった経緯は、以下の通りだった。


 ミキとユウの杖を鑑定し終わった俺達は、予想以上の好結果に気を良くして、意気揚々と酒場へ情報収集に行った。


 酒場といっても、ここは食堂も兼ねた大きな店で、座席数は100以上も存在し、前方にはちょっとした演劇が行えそうなステージもあった。


 まだ昼間なので、それほど混んでいるわけではないが、それでも半数以上の席は埋まっており、中には、かなり酔っ払っている中年の、いかつい男性客もいる。


「まったくよう、こんなまずい酒出しやがって……」


 その男、若い女性の給仕に絡んでいた。


「いえ、でも、お値段の安いお酒ですので、それなりに……」


「バカ言うな、払っている金額は同じだろう!」


「……すみません、税金が高くなったせいで……ぐすっ……」


 思わず涙声になった女性を見て、今度はそのいかつい男が動揺した。


「ご、ごめんよ、お嬢ちゃん。あんたを責めたわけじゃないんだ。今のは、単なる愚痴……そう、悪いのは、全部ヒステリックの奴と、不甲斐ない軍の連中だよ!」


 怒りの矛先が逸れる……と、そこに事態を見かねていたフトシが割って入った。


「まあまあ、お嬢さん、お兄さん。我々が来たからには、もう心配入りませんよ」


 この時点で、俺はとても嫌な予感がしていた。


「なんだ、テメェは!」


「我々は、勇者一行です。ショムーブでは、セクハーラ・トウゴウを倒しました」


 得意げに自慢するフトシ。

 俺は、頭が痛くなるのを感じた。


「……な、勇者一行だって?」


「あの、セクハーラを倒したっていう、噂の?」


 数秒間、静寂が訪れた後……酒場中が大爆笑に包まれた。


「あんた等が勇者だって? 冗談きついぜっ!」


「商人のおっさんに、小柄な剣士と、背は高いけどひょろっとした弓使い、あと、ちっこい女の子が二人。どいつが勇者だっていうんだ?」


「勇者一行には、七英雄の一人、『賢者アイザック』が同伴しているっていう噂だぜ! どこにいるんだ?」


 幸か不幸か、アイザックは人混みが嫌いだという理由で宿屋に留まったままだったので、誰も信じる者なんかいない。

 笑われて恥ずかしいけど、勇者だと信じられて変に目立つよりはいいのかな、と思っていると、シュンがすっと立ち上がった。


「まあまあ、皆さん。いきなりそんな事を言われて信じられないのは当然でしょうが、本当のことですよ。ここに勇者とアイザックが揃っているとは限らないじゃないですか」


 なぜか余裕の表情を浮かべるシュン。……だめだ、こいつもフトシと同類だ。

 すると、客達からブーイングが漏れる。


「口だけならなんとでも言える。勇者の仲間だって言うのなら、それなりの実力を見せてみろ!」


「そうだ、『デュエル』しろ!」


「おお、デュエル! デュエルだ!」


 誰かが叫んだ一言で、酒場中が盛り上がる。

 いつの間にか、デュエルコールが起きていた。


 デュエルとは、要するに『模擬戦』だ。

 本当に剣で戦うと殺し合いになってしまうため、剣の技量を競う場合、細身の木の枝を複数束ねて剣に見立てた、日本で言うところの『竹刀』に似た模造剣で、どちらが先にクリーンヒットを当てたかで勝敗を競う競技が存在しているのだ。


 これなら、当たっても痛いだけで大した怪我には繋がらないし、本当に達人同士だと白熱したバトルになるので、この世界では結構人気の、一種のスポーツだ。


 一応、そういうのがあるとアイザックから聞いていたし、何度か彼の館で練習試合はしていたので試合形式は知っていたが、実際にパーティーメンバー以外と対戦したことはない。


 しかし、こうなってしまってはもう後に引けない。


 『デュエル』では何か賭けるのが通常なので、俺達は十万ゴルドを賭けて、対戦相手を募った。

 すると、がっしりした大男の二人組みが名乗りを上げてきた。


 二人とも全身筋肉の塊……まるでザン○エフだ。

 正直、ちょっとびびった。


 こんなやつらに竹刀とはいえ、思いっきり叩かれたら命にかかわるのでは……。

 大体、ステータスが高いとアイザックに言われてはいたが、俺達はこの世界における強者のそれを見たことがないので、比較しようがないのだ。


 一般人はせいぜい戦闘力100、と聞いているが、眉唾ものだ。

 シュンも、ちょっと表情が強ばっていたが、まあ、さすがに殺されることはないだろうと、勇者のプライドを賭けて勝負を受ける事にした。


 一応、ルールとして身につけている武器は外さないと勝負に臨めない。

 その時に、


「じゃあ、私達がお預かりしますね!」


 と、メイドの格好をした若い女性の二人組が声をかけてきたので、この店の店員だと思い込み、かつ、笑顔の可愛らしさにつられて、『インプレッシブ・ターボブースト』と『レクサシズ・アロー』を渡してしまったのだ。


 そして、デュエル用の竹刀を借りて、この店のステージ上で大声援の中、俺とシュンVSザン○エフ二人組のバトルが開始された。


 ひょっとして、ものすごく無謀な戦いに臨んだのでは……と思っていたのだが、対峙してみると、相手からはなんの怖さも、迫力も伝わってこない。


 それどころか、相手の方がびびっている様子で……そのうちに、耐えられなくなったのか、一人が


「きええええぇぇ!」


 と奇声を上げて突っ込んできた。


 ……遅い。

 俺は苦もなく振り下ろした剣を躱して、胴を竹刀でなぎ払った。


「うぐはぁ!」


 その大男はステージ端まで吹っ飛んで、脇腹を押さえて呻いていた。


「こ……この野郎っ!」


 残った一人が、怒って俺を襲う……と見せかけて、シュンの方に斬りかかった。


 シュンは純粋な剣士ではない、大丈夫か……と思っていたのだが、彼もこの時点で戦闘力800を超える強者だ。せいぜい100、と言われるこの世界の一般人など、相手にならない。


 ひらり、ひらりと余裕で相手の攻撃を躱し、強烈な突きの一撃を相手の胸に当てた。

 その大男も、ステージの端まで吹っ飛び、胸を押さえて苦しそうにもがいていた。


「……うおおぉ、すげえぇ-! 目の前の光景が信じられねぇ!」


「二人とも、レベルのケタが違うっ! 鳥肌がおさまらねぇ!」


「アカン、これはアカンやつや!」


 様々な反応、大歓声。


 そんな中、聖治癒術師のユウが小走りにステージの端に赴き、呻いている二人に『鎮痛』と『外傷回復』の魔法をかけた。

 すると、さっきまで脂汗を流して苦しんでいた二人が、ゆっくりと立ち上がったではないか。


「おおっ、これもスゲェ! 高レベルの治癒術師だっ!」


「すげぇ手際だ……それに、むちゃくちゃ可愛いっ!」


「本物だ……本物の勇者一行だっ!」


「彼等なら、間違いなくヒステリックを倒してくれる!」


「勇者万歳っ! 勇者、勇者!」


 酒場中が、勇者コールであふれかえる。


 これほどまでに称賛されると、悪い気分ではない。

 俺とシュン、そしてユウは、右手を挙げて歓声に応えた。

 ミキはともかく、フトシまでもが手を上げてそれに応えていたのには微妙な気分だったが。


 対戦相手が支払おうとした10万ゴルドは、受け取りを拒否しようと思ったのだが、彼等のプライドもあってそういうわけにもいかず、気前よく店内の客達を奢ることにして、ますます盛り上がったのだった。


 こうなると、ヒステリックの情報収集もしやすくなる。

 気分良く情報を提供してもらって、さあ、そろそろ帰ろうか、というところで、俺とシュンの武器を返してもらっていないことに気づき、さっき預けた女性二人組を捜したのだが、店内のどこにもいない。


 店員に確認したところ、武器は預かっていないし、該当するようなメイド姿の若い女性の二人組も雇っていない、ということだった。


「……ひょっとして、ヤラれちゃった?」


 察しの良いミキの一言に、俺とシュンは青くなった――。

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