第12話  鑑定 (創作)

 商業都市カイケーイ。


 東西に10キロ、南北に20キロの広さを持ち、人口は50万人を超える都市だという。


 たしかに人口密度は高そうで、様々な肌の色の人種や、中には、いわゆる『亜人間』の様な者が、普通に大通りを歩いている。


 武器屋、防具屋、宿屋、肉屋、果物屋、花屋まである。

 立派な建物から露天まで、大小様々な店舗が建ち並び、ショムーブの町とは大違いだった。


 俺たち一行は、例によってアイザックの転移魔法『ルーララ』によってこの街に辿り着いたのだが、第一印象として、種族の多さ、その衣装の豊富さ、そして人口密度の高さに驚いた。


 あらためて、この地が異世界であると再認識したし、また、これほどの大きな都市が存在することにも驚いた。


 しかし、この都市も、なにか活気がないというか、ほぼ全てに人々が、疲れたような、困ったような表情で、街道を歩いていた。


「……いきなり税金二倍だもんなあ、やってられねえよ……」


「国王軍、結構な被害だったらしい。情けねえなあ……」


 そんな声が、あちこちから聞こえて来た。

 どうやら、ヒステリック・モラハーラによる侵攻は本当だったらしい。


 幸か不幸か、国王軍は被害を出しながらもヒステリック・モラハーラをなんとか撤退させることに成功したという。

 しかし、警備を強化せざるを得ない状況のため、緊急で、日本で言うところの『消費税』を倍にしていたのだ。


 この街に着いた俺たちは、例によって情報収集をしようとしたのだが、アイザックは人混みが嫌いだということで、彼だけ宿屋に留まることとなった。


 とりあえず、ヒステリックの侵攻は国王軍が追い払っているので、慌てて追撃に出る必要は無い。十分に準備を調えてから挑む手はずとなっている。


 まずは観光がてら、商店街を歩くのだが、それだけでもまるでリアルなRPGの街中を歩くようで、ワクワクしてくる。

 ミキ、ユウの二人も、


「映画の『ハ○ー・○ッター』の中みたい!」


 と大はしゃぎだ。

 そんな中、ある変わった店の看板が目に付いた。


「どんな品物でも、1000ゴルドで鑑定します! また、1000万ゴルドまでならば即金で買い取ります!」


 と書かれている。

 この国の通貨1ゴルドは、だいたい相場的に日本の1円ぐらいに相当する。

 鑑定だけなら、魔石で結構稼いでいる俺たちならばそれほど気になる金額ではない。


 そこで、ミキとユウの杖を鑑定してもらうことにした。

 アイザックから借りている物で、そんなに安物では無いはずだが、性能を大げさに伝えられている可能性もあるので、こっそり価値を調べてもらうぐらいはいいだろう、と思ったのだ。


 その結果、ミキの杖は


『スタッフ・オブ・スイフト・ハイブリッド』


 という名前だった。


 高度な魔力貯蓄・再回収機能を有し、かつ、『魔法展開迅速化』の能力が付与された、特に戦闘時に威力を発揮する逸品で、買い取りの値段は驚きの上限一杯、1000万ゴルドだった。


 ユウの杖は


『スタッフ・オブ・アクア・ハイブリッド』


 という名で、水族性、治癒系の魔法を強力に補助する能力が付与されている。

 また、ミキの杖と同様に、高度な魔力貯蓄・再回収機能を有しているらしい。


 これにも、1000万ゴルドの値段が付いた。


 この結果に、店員は興奮し、さらにそれを見ていた別の客達も集まってきて、店内のざわつきは治まらない。

 アイザック、やっぱりあんた、結構すごい人だったんだな……。


 とにかく、売る気は無いことを話して、その店を逃げるように出た。

 ミキは、


「あんなに高い物だったんだ……絶対、なくせないね」


 と、愛おしそうに抱き締めている。

 それに対して、ユウは、


「どうしよう……単なる木の棒だと思って、東郷さん叩いちゃった」


 と、杖の上部を撫でている。

 そういえば彼女、セクハーラ・トウゴウをその杖でタコ殴りにしてたんだったな……。


 俺の武器、『インプレッシブ・ターボブースト』とシュンの武器、『レクサシズ・アロー』も、彼女たちの武器と同等もしくはそれ以上の値段が付くはずだ。


 それだけの逸品をそれぞれ与えられているということは、それだけ期待されているということだ(ただしフトシ除く)。


 あらためて責任の重さを再認識したのだった。


 それから数刻後。

 俺達は重い足取りで、アイザックの待つ宿屋へと戻った。


 彼の部屋を訪れると、


「おお、大分時間がかかったようじゃのう。有益な情報は得られたか?」


 と聞いてきた。

 俺はバツが悪そうに、


「ええ、あの……ヒステリックが根城としている場所の見当はついたのですが、その、ちょっとしたトラブルが発生して……」


「ふむ、トラブル、とな? 何があった? 少し顔色が悪いぞ?」


「いえ、その……大したことじゃ無いんですが……」


 俺の顔を、仲間みんなが見つめる。


 「頑張って」


 とミキの小声も聞こえた。


 俺は、正直に打ち明けることにした。


「あなたからお借りした、俺の『インプレッシブ・ターボブースト』と、シュンの『レクサシズ・アロー』ですが……盗まれちゃいました」


「………………」


 アイザックは、数秒間固まった。そして……。


「シキエェーーーーーー!」


 奇声を上げて、その場に卒倒した――。

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