第28話
言いたい事は全部言って、聞きたい言葉もようやく聞くことが出来た。もちろんその中には好きだという言葉も入ってる。
これでようやく、自分の置かれている状況と向き合う事が出来た気がする。
「それで志穂は、これからどうするか答えは出た?」
木葉が尋ねる。だけどごめん、今私が言えるのはこんなのしかない。
「あ、それね。今すぐは無理」
「ここまで引っ張ってそれ?」
散々待たせたあげくこれじゃ納得いかないかもしれない。だけど私にだって言い分はある。
「だって仕方ないじゃない。私にしてみれば生気を失うなんてついさっき知ったのよ。そんなすぐに答えなんて出せるわけないじゃない」
「そりゃ、そうかもしれないけど……」
まだ納得いかない様子の木葉。確かにこれは、いつまでも先送り出来る事じゃない。だから私は一つの提案をした。
「一週間、時間をちょうだい。そしたら、ちゃんと答えを出すから」
はたしてそれで本当に答えが出せるかは分からない。だけどそう言うと、木葉は分かったよと答えたてくれた。
「一週間か。ヌシ様の怒りを買った以上この山にはいられないだろうし、しばらくどこか別の場所にでもいくかな」
「そうだ。それって大丈夫なの?」
「まあ、何とかなるって」
あっさりそう言うけど本当だろうか?
だけどヌシ様も妖怪の世界の仕組みも知らない私にとって、こればかりは木葉を信じるしかなかった。
「それより、山が無理ならどこで会おうか?」
心配する私をよそに、当の本人が気にしているのはそんな事だった。
まあ確かにそれも考えなくてはいけない。もし話している所を人に見られたらぶつぶつと独り言を言っている危ないやつと思われるだろうからよく考えないと。
私の家か、それともどこか人気のない場所か。だけどそこまで考えた時、頭の中にある考えが浮かんだ。
「ねえ、私の答え次第では、もしかしたら次に会うのが最後って事になるかもしれないわよね?」
そう言うと、この葉は顔を曇らせながら頷いた。
「そう…なるね。って言うか、俺はそうするのが一番だと思ってる。そりゃ俺だって志穂に会えなくなるのは嫌だ。だけど……」
「ああ、そういうの今はいいから」
深刻そうに言う木葉のセリフをバッサリ切り捨てる。会えなくなって嫌だと言ってくれるのは嬉しいけど、いま重要なのはそこじゃない。
話を折られ、憮然とした表情を浮かべる木葉に私は言った。
「待ち合わせ場所、駅にしようよ。知ってるでしょ」
「いいけど、どうして駅なの?」
人間同士なら落ち合う場所としては無難だけど、人の出入りが多いから木葉と話をするのには不向きだ。
もちろんそんな場所を提案したのには理由がある。
「一緒に行きたい場所があるからよ。来週から夏休みだし、ちょうど良いわ」
「行きたい場所?」
そんな場所に心当たりなんてないであろう木葉は、不思議そうな顔で尋ねた。
「そう。もしかしたらアンタと会う最後の機会になるかもしれない。だったら、一回くらいはデートしてよ」
「デート!?」
私の答えを聞いて素っ頓狂な声があがる。こんな事を言われるなんて思ってもみなかったのだろう。
「そう。遊園地デート。一日付き合ってもらうわ」
だってお互いに好きだって言って、それでただの一度もデートもしないまま終わるだなんて、そんなの絶対に嫌だった。
「それとも、私とのデートは嫌?」
覗き込むような目で尋ねる私。木葉は戸惑いながら、それでもちゃんと答えてくれた。
「……よろしくお願いします」
かくして、私達の初デートが決定した。
はたしてそれが最後のデートになるかは、まだ分からなかった。
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