決着

 ネモは手にしたメマメに意識を集中する。

 メマメは不思議そうな目つきでネモを見て、その瞳を閉じて光を放った。


 その光の中で、大きな豆に似た人工妖精は、鈍く鋼色に輝く口紅くらいのライフル弾に変わった。

 ネモはポップコーンでも食べるようにその弾丸をひょいっと口に放り込んでごくん、と喉を鳴らして飲み込んだ。

 そのままその場で、ぴょん、とジャンプすると空中でクルリと回転して、優美な紋様に飾られた漆黒のスナイパーライフルへと姿を変えた。

 ぴーう、っと護り屋が感心したように口笛を吹いた。


「成る程な。本物の魔女か」

──あまり驚かないんだな。

「ああ。魔女と関わるのは初めてじゃない」

『お喋りしてる時間はないわ。ゼロインと砲術ミルの調整は私がする。ダーリンはクロスゲージの真ん中にあの鏡を狙って、引金を引いて』

──霊的コアの位置はポイントしてくれるんだな?

『好きなマークにしてあげる。何色のハートがいい?』

──お喋りしてる時間はないんだろ。もうお前が撃てばいいじゃねえか。

『あれはこの街の名前に成り代わろうとしてる化け物よ。あなたじゃなきゃダメ。意味は分かるでしょナナゴン』

──その呼び方はよせ。


「折角のパーティに水を差すとは。無粋な方々ですこと」


 全員が振り向くと、そこには仮面を被った女が立っていた。

 仮面といってもそれはのっぺりとした起伏のない半球面で目鼻はなく、ただ顔の真ん中に赤い「福」の字が逆さまに書かれていた。銀色のワンピース。肘まである同じ色の手袋。そして血のように赤いハイヒール。


──その声……レインボーメイカー!

「……こいつが⁉︎」


「久しぶりね七篠さん。それと遥々ご苦労様。護り屋さんに監視屋さん」

──冷やかしなら帰ってくれ。大人は仕事で忙しいんだ。

「歳なら私はあなたとそう変わらないわ。まあ美容には気を遣っているからそう見えないかも知れないけれど」


 ガキ、ン!


 軽口を叩き返そうとした俺が口を開き掛けたその瞬間。火花が閃いたと思うと、そこには短刀を手にした護り屋がその刺突を仮面の女の盾に阻まれてせめぎあっていた。

 いや。盾じゃない。銀色のキラキラした星の集合体が、群れを成す小魚のように空中を漂って護り屋の斬撃を抑え込んでいるのだ。 

 その二人の後ろに、細長い影が音もなく立った。ギザギザ歯のニヤケ笑いが一瞬見えたと思ったらその影はひっくり返るように翻り、仮面目掛けて鋭い回し蹴りを放った。女はそれも銀の星の群体で防いだ。二撃、三撃、跳躍して空中からの三連撃。もちろんその間に護り屋も短刀と炎を纏った扇子との連携攻撃を連続で繰り出している。二人は意外な程に息ぴったりのコンビネーションで仮面の女、レインボーメイカーを防戦一方に追い込んでいた。


「こっちは任せろ」

護り屋が短く告げた。

「お前はお前の仕事をしろ」

──恩には着ないぜ。利害は一致してるんだからな。

「無駄口はいい。早くしろ」


 ったくどいつもこいつも人遣いがあらいぜ。


 俺は伏せ打ちの姿勢を取るとスコープを除き込む。

 迫り来る巨大な「アズサ」というバカバカしさに頬が緩むが、それを引き締めてスコープのゲージの中心に、ピンクのハートマークを捉える。


 ネモのやつ。マジでハートにしやがって。


 呼吸を止める。骨の固定と筋肉の緊張。

 帰って来い、アズサ。

 俺はまだお前の離職願いを受理してねえぞ。


 今だ。

 指を絞るように引き金を引く。

 銃声。反動。覗くスコープの中に光が溢れる。

 次の瞬間それは、強い衝撃波を伴って花火のように爆発した。


 

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