二日目
結局、アズサはどこに見つからなかった。
ただ、全く情報がないわけでもなかった。
どうも、アズサの事を調べて回ってた見慣れない連中がいたらしい。
「ああ、聞いたよ。アズサちゃん行方不明だってね」
喫茶「馬頭琴」のマスター、シェイカーが、ピカピカのシェイカーそのものの頭を俺に近付けて心配そうな声を出す。
この店は、いわゆる「異形頭」と呼ばれる様々な道具や非生物様の頭を持つ人々の溜まり場だ。
──何か知らないか? どうもアズサのことをアレコレ聴いて回ってた二人組がいるらしいんだ。
「ああ、あの羽織袴とパンクルックの二人組か……うちにも来たよ。 デジカメちゃん」
マスターの呼び掛けに応えて、店の奥にいたデジカメ頭の女性がこちらにやってくる。
頭は枕ほどの大きさのデジカメ、首から下はスレンダーな女性のそれで、ブレザーにチェックスカートの近所の高校の制服を着ていた。
「最近、うちに良く顔出してくれてるデジカメちゃんだ。デジカメちゃん、こちらはぐれた名前を追い掛けるのが仕事の……」
「ネームハンター、七篠権兵衛ね。知ってるわ。宜しく。七篠さん」
彼女は伸ばした人差し指を天井に向けてくるっと回しながら生意気な挨拶をよこした。
──こちらこそよろしく。デジカメのお嬢さん。
「デジィでいいわ。友人はみんなそう呼ぶの」
──そうかいデジィ。俺も七篠でいいぜ。友人はみんなそう呼ぶ。
「オーケー七篠。昨日、あなたが今探してるこの店に来た二人組を私は尾行したの」
思わずマスターに視線を送ると、マスターは肩を竦めて見せる。
カウンターテーブルの上に、彼女の綺麗にコートされた爪の付いた指が四枚の写真を並べる。そこには、何かの物陰から撮った二人の人物が様々な角度で写っていた。
「光学4.2倍、デジタル12倍、2424万画素の最大ズーム。二人とも、やったら勘が良くって。これ以上接近しての撮影は無理だった」
少し得意げに彼女は言って、パシャリとシャッターを切って見せる。
「今回はロハでいいわ。挨拶がわりよ」
──デジィ。君の性能は良く分かった。だが、今回のような真似は……。
「お説教するなら写真引っ込めるわよ」
──危なかっかしいぜお嬢さん。こいつらは、君をバラバラの部品に変えてたかも知れないんだ。
「だから写真に値段が付く。あなたもそうやって今の仕事に就いてるんでしょ? ネームハンター」
俺はもう一度マスターを見た。
マスターはもう一度、肩を竦めて見せた。
***
デジィが撮った写真を手掛かりに、謎の二人組を探す俺だったが、その正体も居所もようとして知れなかった。
ただ、アズサを探していたことと、この街では今まで見なかった……余所者だろうことだけはハッキリしていた。
アズサを、アズサを追う謎の二人組を、日が暮れるまで探し回り、オトトイ食堂で夕飯を済ませてトボトボと事務所に帰る道を歩く。
その足元にててて、と黒猫が歩みを寄せて来た。
──何か手掛かりは?
「…………」
──そうか。
「にゃー」
──いいさ。俺も一日駆けずり回ったが、アズサを探す謎の二人組については分からなかった。
「にゃー」
──いや。だからこそ逆に、俺には犯人の目星はついたぜ。
「にゃー」
──思い出さないか? あり得ないことを引き起こし、作品から登場人物や作者を引っこ抜く俺たちの敵。
「……にゃー」
──そう。レインボーメーカーだ。
話しながら歩くうちに事務所に着いた。
ん? 事務所の扉のガラス部分に何か貼ってある。
……手紙?
「にゃー」
──向こうから誘って来やがった。
明日、午後六時。大南橋まで来られたし、だとよ。
「にゃー」
──かもな。だが俺たちにゃ他に選択肢がねえ。行ってやろうじゃねえか。
アズサは、必ず取り戻す!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます