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 僕らは13階のペットショップにいた。


 あれ? この建物13階もあったかな? 確かペットショップも別の階じゃなかったっけ?


「ドワーフグラミー! 熱帯魚としてはメジャーな種類なのよね〜〜」

 女部長は得意げにそう説明しながら、すたすた先に進んで行く。

「熱帯魚の品種か。知らなかった。良く知ってたなぁ」

 僕が素直にそう感想を漏らすと、間村はまた得意そうに笑って

「ミス研の部長ですからね、これくらいは」

 と、澄ました顔をした。

 なんというか僕は、その彼女の様子が微笑ましいやら愛しいやらで、僕の中の彼女への思いが、僕が当初思っていたより確かで強固なものだと知った。


 津村先輩はそわそわした様子でさっきから繰り返し香川先輩に携帯から電話を掛けている。


「ドワーフグラミー……最後の四角は? 」

「熱帯魚は何に入ってると思う? ほら」

 ズラリと並ぶ熱帯魚別の水槽の中、ドワーフグラミーと蛍光ピンクのマジックで書かれた小さな魚の泳ぐ水槽には、灰色の斑らの砂利が敷かれ、その中心に、白いドクロのオブジェが沈められていた。


「ドクロ……なんのヒントだろう」

「ドクロ? 何言ってるの京太郎? 」


 間村の言葉に改めて水槽を見直せば、そこには陶器っぽい材質の数字の「7」のオブジェが少し傾いて沈んでいた。


 ……頭が、痛い。

 津村先輩はもうそれどころではなく、泣きながらスマホでLINEを送ったりコールしたりを繰り返している。


「最後の数字も7。ジャックポットで爆弾が止まる、ってことか。やったね、京太郎」

 間村の様子は変わらない。

 ふと感じた違和感に辺りを見回すと、僕と間村、津村先輩以外の人間が誰もいない。客も。店員も。誰一人。いや、そこにヒト型の何かはある。それは等身大の人間のシルエットに、コピー機で出力したような人物の写真が貼られた平面の立て看板だ。


 なんだ。僕は何を見ているんだ。なぜ間村はこの状況で様子が変わらないんだ。僕が……僕ひとりがおかしいのか⁉︎


「間村」

「なに? 京太郎」

「この店内の様子、何か変わった感じがしないか? 」

「店内? この、ドワーフグラミーの水槽以外で? 」


 そう彼女が示す水槽にはもはや水すらも張られておらず、中身は敷かれた砂利だけだ。そこにボール紙の紙片が立ててあり、そのボール紙にはマジックで文字が書き殴られていた。


 GAME OVER


 見回せば水槽は全て空っぽ。ペットグッズの棚は全く商品が並んでおらず、鳥籠や犬猫のケージには安っぽいぬいぐるみが入れられている。


 津村先輩は半狂乱になりながら、ヒト型の立て看板の裏側や空っぽの商品棚の中などを這いずるようにして、恋人の姿を探している。

 見ればそのヒト型の立て看板はいつの間にか写真すらなく、ベニヤ丸出しの板に「客」「店員」などと直接マジックで書いてあるものになっていた。

 

 なんだ⁉︎ 一体……何が起きてるんだ⁉︎


 がたん、と音がして、店の一面が……いや、景色の四分の一が丸々倒れた。

 それは予算のないコントのセットのような店の中の風景の絵が描かれた大きな板だ。

 その先は真っ暗闇。

 幾ら目を凝らしても一切何も見えない本当の闇だ。


 津村先輩は床に這いつくばったまま動かない。その髪、衣服の隙間から見える肌や手足。どうやら先輩の服を着たマネキンに入れ替わったようだった。


「どうしたの京太郎? 大丈夫? すごい汗よ? 」


 逆に君はなんで平気なんだよ、という問いをギリギリの所で飲み込んで、僕は彼女を抱き寄せた。

「きゃっ‼︎ ちょ、何⁉︎ 」

「いいから動かないで! 」


 がたん。

 また景色の四分の一が倒れる。

 何が起きてるかさっぱり分からないが、僕の勘が確かなら、この世界は……終わろうとしている……!



 にゃーーーっっっ!!!



 猫の鳴き声が響くのと、更に景色の四分の一が倒れるのとが同時だった。

 僕は残る四分の一の景色の中に、鳴き声の主の姿を探した。彼女の、間村美沙の手を引いて。ガラスの向こうに並ぶ、犬猫用のケージの中を。


 その猫はいた。

 黄色い大きな瞳。毛並みはビロードのように美しい。綺麗な立ち姿で真っ直ぐに佇んで、僕を正面から見つめている。

 

 猫が口を開く。

 だが、零れ出たのは獣の鳴き声ではなかった。


「思い出して」


 黒猫は耳に心地よい女性の声で囁いた。


「七篠権兵衛」


 記憶が、人格が、頭の中で光となって弾けた。


 

 僕は

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