ミス研のク部長は人イ吏いが
インド料理「レッドスネイク」は、昼時のピークには少し早いが、それでも満席のようで、店の前の入店待ちの椅子は埋まっていた。
「あっ! あれ見てあれ! 」
津村先輩が嬉しそうな声を上げる。
店の前に置かれたお勧めメニューのブラックボードには、旨そうなカレーの名前と共にのたくる赤い蛇で、数字の「7」が描かれていた。
「一つ目の数字は7、か」
香川先輩が、心にメモるような様子でそう声に出して確認した。
少し離れて店の様子を見ていると、時々浅黒い肌の外国人と思しきスタッフの人が、入店待ちの人の名前を控えたり、事前に選んで貰えるようメニューを渡したりしていた。
「あのう……」
その外国人スタッフに果敢に話掛けたのは我らがミス研女部長、間村美沙だった。
「はい? 」
「私たち、このイベントの参加者なんですが」
間村は首から下げた参加者証をスタッフに示す。
彼は一本指を掲げ頷いて了解した旨を示すと、店に入り、またすぐ出て来て、間村に封筒を渡した。
「食後は音楽ヲ聴くとイイデス。クラシックは素晴らしイ」
糊の効いた制服をパリッと着こなすその髭の男性スタッフは、少し訛りのある日本語でそう言うとパチリとウインクした。
「クラシック……」
「弦楽コンサートか」
「封筒の中身は? 」
中からは15cm四方くらいの、正方形のカードが出て来た。一片に小さく「UP」反対側に「DOWN」と書かれている。そしてそこかしこに、一片1cm四方くらいの穴が、ぽこぽこと開けられていた。
「それだけ? 」
津村先輩の質問に、間村は封筒を覗き、逆さにして振ったが、正真正銘内容物はその穴だらけのカードだけのようだった。
「とにかく、コンサートホールに行ってみよう。そこにきっと他のヒントが--」
と、言い掛けた香川先輩は、何かに気を散らして言葉を切った。
「どうしたんです先輩? 」
「いや。そこを猫が横切ったように見えたんだ」
「……黒い猫、ですか? 」
「あ、志村君も見た? 」
「いえ。そういう訳ではないんですが……なんとなく」
今日は朝から、やけに黒い猫がつきまとう。
黒い、猫……?
なんだろう。何か忘れているような。
なんだか……とても懐かしいような……。
「行くよー! 京太郎! 」
間村が呼んでいる。
僕は返事代わりに手を挙げて応えると、間村を追ってエスカレーターへ向かった。
間村の背中に追いついてエスカレーターに足を掛けた瞬間、ほんの少し頭痛がした。
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