愉快になりたがったぼくらのために

楽しい歌を、素直に聴けないんだ。


でも、そんな僕らが一番実は素直なんて、面白い気まぐれじゃない?


そう笑っていた君と、僕は、今日も色々と考えていた。


考えるってさ、とても大事ね。


でも、悩んじゃってるのも最近は疲れたし飽きたもんだから、楽しく行こうじゃん。人生だもん。


……ところで、僕らは少し変な仕事をしている。


街の端っこの、掲示板に、毎日ポスターを貼る仕事だ。


そこには特別なメッセージが込められてたり、してなかったりする。


電話が来る。今日も依頼だ。


行ってきてくれる?


君がそう言うので、僕は身支度を整える。


扉を開ける前に、いってらっしゃいの声が聞こえた。いってきますと答える。


街を歩くと、当然ながらいろんな人が喋っているのを見かける。


難しい話や、たいしたことのない話、歩いてるので一瞬聞こえてはまた話題が変わる。


ふと上を見上げると、空が晴れていた。まっすぐな青色だ。綺麗だとか云々よりも、とにかくまっすぐさを僕は感じた。


僕はまっすぐに、この道を進みたい。


そう思いながら、また、一瞬聞こえる話題に耳を貸す。


知らないところで、知らない人の人生が動いている。当たり前だけれど、意外と掴みにくい感覚だと思う。


掲示板に辿り着く。


ポスターを貼る。今日の依頼は、この真っ白な紙を貼ることだ。


正直言って目的は分からない。しかし、目的のよく分からない仕事というものは、思ったよりもよくあるもの。


なのでそこを疑問には思わず、大事なのは目的は自分で見つけるべきだということだと、なんとなく言い聞かす。


世界には全ては用意されていない。


用意するのはいつだって僕らだ。


このポスターだって、僕らが用意したから、今そこにある。それは誇りに思って良いだろう。


しかし、このポスターに込められた意味は、注文した人にしか今のところは分からない。その人が用意しているのだ。


すると、電話がかかってきた。君からだ。


ごめんね、もう一枚あったの。


申し訳なさそうに喋る君ではあったけど、別にたいした距離じゃないし、散歩のような気分で楽しめば良い。


こうなったには、こうなる理由があったのだ。例えばこの時間をもう一度楽しむためのチャンスなのかもしれない。


もしくは、理由なんてなくても、こうなったには、こうなったなりの楽しみ方があるということで。常に用意するのは僕らである。


マイナスをプラスに変える、なんて気軽に言うけれど。


それは難しい。


つらいことはつらいし、かなしいことはかなしい。


でも、そこで全て投げ出すか、歩いてゆくか。


それにはやっぱり、僕らに選択権があるのだ。


取りに帰る。


そしてもう一枚の紙を見たとき、僕は注文者の目的を察した。なんて、面白い人なんだろうと小さく笑った。


次の日。


白いポスターは、鮮やかにレインボーを纏い、それは広場の人々を喜ばせるには十分で。


隣には一枚。


ご自由に、このポスターにお絵描きなさってください。


それだけ書いてあった紙。


……楽しい歌を、素直に聴けないんだ。


でも、そんな僕らが一番実は素直なんて、面白い気まぐれじゃない?


そう笑っていた君と、僕は、今日も色々と考えていた。


考えるってさ、とても大事ね。


でも、悩んじゃってるのも最近は疲れたし飽きたもんだから、楽しく行こうじゃん。人生だもん。


無理して笑う必要も、無理して泣く必要もない。


無理して話す必要も、無理して話さない必要もない。


理由をつけなくても良いし、理由をつけたって良い。


とにかく、愉快になりたがったぼくらのために。


それなりに世界は優しくあろうとするのだ。


僕らが世界を優しくする。できるよ。

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