第123話 帰りの道中

 まったくひどい味だったな。あのサプリメント。この世界にはオブラートは売ってないんだろうか。今度探してみるか……。


 ホワイトドラゴンの肉を超濃縮したサプリメントの効果だが、説明文通りの効果はあるみたいだ。小さじ一杯の粉でホワイトドラゴン一キロステーキを食ったときと同じくらいスキルポイントはアップしている。……ただ……、クソまずいけどな! もう夕方になったってのに昼間に飲んだ薬の後味が残っているのか、まだ口の中が気持ち悪い……。


 俺はかなたんとの約束通り、夕方になったので研究所に戻る。


「ただいま戻りましたよっと」

「お、帰ってきましたね。私もちょうど今仕事が終わったところなのです」

「そうか。研究の方は順調なのか?」

「ええ。一週間ほどで本実験を開始できそうです」

「まったくその子の頭脳は本物ね。嫉妬を覚えちゃくらいだわ」


 俺とかなたんの会話に割って入ってきたのは研究所所長のよいよいさんだ。よいよいさんは満面の笑みでかなたんの方を見ている。


「かなたんが何かすごいことでもしたんですか?」

「すごい、なんてもんじゃないわ。魔力炉の理論自体に矛盾がなかったのはもちろん、理論証明のための実験方法も効率的なものを提案してくれたわ。実験者ってのは理論を作るのが得意な人はたくさんいるんだけど、実際の実験では非効率的なことをしちゃう人が多いの。そんな中、かなたんちゃんは要領も心得ている。今までこんな子が埋もれていたなんて信じられないわ。これからは魔法を使えない人間にも魔導学の門戸が開かれるようにする必要があるわね」

「べた褒めじゃないか。良かったな、かなたん」


 かなたんは無言で胸を張る。少し顔が紅潮しているのを見るに、嬉しいらしい。素直に喜べばいいのに。


「さ、帰りますよカズヤ。よいよい所長、失礼します!」

「はいお疲れ様。気を付けて帰るのよ」


 オレもよいよいさんに一瞥すると、かなたんとともに研究所をあとにした。


「さて、今日はどこで夕飯を食べましょうか?」

「いつもの食堂でいいんじゃねえか?」

「そうですね。そうしましょう」


 などと会話しながら、俺とかなたんは行きつけの食堂に向かって歩みを進める。道中、オレはふと思い出した。そういえば、まだかなたんに報告してなかったな。


「なあ、かなたん実はな……」

「なんです? 急に改まって……」

「馬車の借金のことなんだが……」

「まーだ、心配しているのですか? 大丈夫ですよ。私に給料が払われたらカズヤに貸してあげますから」

「あ、いや、それがな、かなたんから借りる必要がなくなったんだよ」

「……どういうことです……?」

「割の良い依頼があってさ。それで運よく一億エリス稼ぐことができたんだ。それでさ、もう全部借金は払い終えたからさ。かなたんの給料はかなたんのために使ってくれ。きっと、この街ならかなたんが魔法を使えるようになる方法だって見つけられるだろうし……。」

「…………一体どんな依頼を受けたのです……?」

「攻撃魔法を受ける人体実験だよ。結構大変だったんだぜ? 爆発魔法やら、毒魔法やら、電撃魔法やらやら……。オレ以外にも被験者がいたんだが、みんな黒焦げになったりして大変そうだったぜ。ま、回復してくれるアークプリーストが別の場所で待機してたから……」

「……ばか」


 オレの話を遮るようにかなたんが短い二文字を紡ぐ。わずかに動いたその口からは明らかに怒りの感情が感じられた。オレは思わず、かなたんの顔を凝視する。かなたんの眉は吊り上がり、感情に呼応するようにかなたんの紅い目はより一層赤く輝いていた。……その眼には涙が浮かんでいた……。


「カズヤのばかばか、馬鹿ぁああ!! 自殺するような真似はさせないって私言ったじゃないですか!! なんでそんな危ないことをするんですか!? もうカズヤなんて知りません!!」


 かなたんは、街中で大きな声で叫んでいた。通行人の視線が突き刺さる。かなたんは言い終わると、雑踏の中へと消えていった。取り残されたオレは呆然と立ちすくむ。……オレは知らなかったんだ。自分のことを自分以上に心配に思ってくれる人がこの世にいるなんてさ。

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