第121話 かなたんの進捗状況

「むにゃむにゃ……。うーん?」


 オレとよいよいさんが解呪について話していると、机に突っ伏していたかなたんが目を覚ます。寝ぼけ眼をこすりながらかなたんは口を開く。


「所長にカズヤじゃないですか? ……一体どうしたんです?」

「……もう朝だぞ。お前が徹夜するって言ってたから見に来たのさ。その様子だとあんまり捗らなかったみたいだけど」

「え? も、もうこんな時間なんですか!?」

「やる気があるのは結構だけど、ちゃんと寝なくちゃだめよ。効率悪くなるだけなんだから」

「わ、わかりました……」

「今日はもう帰って二日分寝なさい。明日からまた一〇〇パーセントで働くこと! いいわね?」


 すでに朝になっていることに驚くかなたんに釘を刺すよいよいさん。


「それで進捗状況とやらはどうなんだ? うまくいってるのか?」とオレは魔法のことなどわからないくせにかなたんに確認を取る。

「ええ。ばっちりですよ。理論的にはこれで魔力炉の一部を術者から魔力を受け取るモノに分け与えることができるはずです……!」


 自慢げにかなたんはなにやら数式と図を書いた用紙を掲げる。やはりオレには何を書いているのかさっぱりわからん。


「魔力炉を分けるですって……!? 見せてちょうだい!」とよいよいさんが目を見開いて驚愕している。……そんなにすごいことなのか……? よいよいさんは一通り用紙に眼を通すと口を開き始めた。


「驚いたわ。たしかにこの手法を利用すれば魔力吸着素材によらずに対象となる物体に魔力を供給し続けることができる。それも半永久的に……!」


 魔力吸着素材ってのは以前かなたんがオレに教えてくれた魔力の電池みたいなやつのことだな。


「す、すいません。オレよく知らないから教えてほしいんですが……魔力炉ってなんです?」

「ふぅ。勉強が足りませんね、カズヤ」


 かなたんが勝ち誇ったような表情でオレをバカにしてきやがった。頭ぐりぐりの刑に処してやりたい。オレが眉間にしわを寄せている様子を見てかなたんは説明し始める。


「いいですか? 私たち人間が魔力を生み出せるのは体内に魔力炉を持っているからなのです。そこで魔力を発生させることで魔法などを使えるようになるわけです」

「その魔力炉を体から分けてモノに移すってことか? なんかリスクが大きそうだな」

「そうですね。これから動物実験などを繰り返さなければなりません。しかし、これが成功すれば今までとは全く違う魔法の応用ができるようになるはずです!」


 かなたんのやつ、すごい自信だなぁ。しかし、よいよいさんが真剣に論文に眼を通しているあたり本当に革新的発想らしいな。


「文面上は矛盾が見当たらない。これは研究費を弾まなきゃならないわね。かなたんちゃん。明日から部下をつけてあげるわ。あなただけじゃ、実験に限界があるでしょうからね!」

「ぶ、部下ですか!?」と驚くかなたん。

「よかったじゃないか。お前頼られ好きだもんな」


 魔力炉を知らないことをバカにされた仕返しにオレはかなたんを茶化す。


「……じゃあ明日からカズヤはお払い箱ですね」

「ちょっ!? ただの冗談だって! そんなに怒らなくてもいいじゃないか!?」


 頼られ好きとオレに茶化されたかなたんがむっとした表情をして不機嫌な様子になるので、オレは間髪入れずにフォローする。


「ふふふふ。本当に仲が良いのね」とオレ達二人のやり取りを見ていたよいよいさんが感想をもらしていた。

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