第120話 原因
ギャンとの実験で得た小切手をギルドで換金したオレは、その場で馬車の借金を返済することにした。こういうのはとっとと終わらせる方がいいからな。
「一か月分の御者代と厩舎代で四千万エリス。また、3か月契約の途中解約ですので解約料として一か月分頂ます。よって、計8千万エリスのお支払いとなりますが……よろしいですか?」
「……はい……」
オレは力なくうなずく。はぁ。本当なら今ごろ、暴れ牛狩りでウハウハだったはずなのに……。だがしかたない。オレは八千万エリスを名残惜しくも馬車担当の受付嬢に渡して領収書を受け取る。残り2千万エリスか……。無駄遣いしなければしばらくは暮らしていけそうだ。といっても一か月くらいが限度だろうけどな。ギルドで用を済ませたオレは宿に戻り、眠りに就いた。
翌日、オレはかなたんが勤める研究所に向かった。昨日は夜通し研究するから宿には戻らないとかなたんは言ってたが……。
研究所に着くとオレはまっすぐにかなたんに与えられている研究室に足を運ぶ。そこには机でうつ伏せになって眠るかなたんの姿があった。
「おい、風邪ひくぞ!」
「うぅーん、もう食べられません……」
なんともステレオタイプな寝言を放っているかなたん。まったく、無理するなって言ったのに。オレは近くの椅子にかけてあった毛布をかなたんの背中にかけてやった。
「あら。お兄ちゃんが来てたのね」
研究室に入って来て声をかけてきたのはこの研究室の所長よいよいさんだ。
「兄妹じゃありませんよ!」
「そうだったわね。ごめんなさい」とよいよいさんはいたずらな笑みを浮かべると、「でも本当に兄妹みたいよ?」と続けた。
「それでよいよいさんはどうしてここに?」
「あら? 私は所長なのよ? 研究員の進捗状況を確認するのは当然じゃない。……ちょっと様子を見に来たのよ。同郷のよしみもあるし……。この子、魔法が使えないのをコンプレックスにしてるみたいだし……気になっちゃってね」
よいよいさんはかなたんに視線を向けながら心配そうに微笑む。まるで母親が子供を見ているかのような表情だ。
「よいよいさん、こいつみたいにまったく魔法のスキルが覚えられないなんてことがあるんですか?」
「……ふつうは考えられないわね。どんなに才能がないとしても魔法をひとつも覚えられないなんてことはない。何かしらの低級スキルは取得できるはずだわ。ましてやこの子はアークウィザードになれるくらいの資質があるのだから尚更まったくスキルを覚えられないなんて考えにくい……。もし、スキルを習得できない原因があるとすれば……」
よいよいさんは一呼吸おいてから自身の考えを口にする。オレは唾を飲み込みながら耳を傾ける。
「呪い、ね」
「呪い……?」
「ええ。スキルの中には特定のスキルを無効化できるものがあるでしょう? すべてのスキルを無効化する呪いのようなスキルをこの子が受けている可能性がある」
「そんなスキルがあるんですか!?」
「私が知る限り無いわ。だから呪いを受けているという私の考えは推測の域を出ない」
「もし、そんなスキルをこいつが受けているとして……どうやったら治せるんです!?」
「一般的には呪いに対抗できる解呪のスキルを自身で習得するか、あるいは他人に使ってもらうかの二択ね。残念ながら、私の力ではこの子に呪いがかけられているような兆候は見えない。呪いの正体がわからない以上、どのスキルが通用するかはわからないわ。この世界には呪いはごまんとある。もちろん解呪スキルもごまんとあるわ。すべての解呪スキルを使うってわけにもいかないでしょうし……」
「……そうですか。……呪いと解呪のスキル、か。ヒントありがとうございます。こいつが魔法を使えるようになる方法を見つける手がかりになるかもしれません」
「この子が魔法を使えるようにしてあげるの? やっぱり兄妹みたいに仲が良いのね」
「……仲が良いかはわかりませんけど……、約束しましたからね。魔法を使えるように協力してやるって」
オレはかなたんの寝顔を見つめながらよいよいさんに説明するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます