第118話 マグイアの青年
「だ、ダメだ。オレは逃げるぞ!」
「オ、オレも……」
残っていた数人の男たち、そのほとんどが戦士のおっさんが魔法攻撃に耐えられなかったのを見て荒野から離れていった。オレともう一人だけが残される。
「つ、次は俺がいく……」とそのもう一人が震えながら手を上げた。
「お、おいアンタ大丈夫か? 無理しなくてもいいんじゃないか?」とオレはお節介をしてしまう。この人はモヒカンのおっさんや戦士のおっさんよりも体が小さい。俺より少しガタイが良い程度。とてもあの攻撃魔法に耐えられるとは思えずオレはつい声をかけてしまったわけだ。
「心配してくれてありがとう。でも、金を稼ぐにはやらなきゃな……。オレには年老いた病気の母親がいるから……」とオレと同じ年くらいの青年は口にする。
「……無理しない方がいいぞ。……アンタ、マグイアに住んでんのか?」
「そうさ。生まれ故郷だ」
「金がないんなら他の街に行けばいいじゃねえか……! この無駄に金がいる街に住むより、よっぽど幸せに暮らせる……。良い街を知ってるんだ」とオレはスルアムを思い浮かべながら男に話す。もうスルアムの街は平和なはずだ。他所者を邪険に扱うヤツもいないはずさ。しかし、青年はオレの提案をさわやかな笑みで否定した。
「ありがたい話だが遠慮しておくよ。ここはオレの街なんだ。金持ちにしか優しくない息苦しい街になっちまったが、それでもオレの故郷なんだよ」と言い残して青年は実験台へと上がっていった。
「それでは攻撃係の方よろしくお願いしますよ!」とギャンの声が響く。攻撃係のアークウィザードが爆発魔法『エクスプロージョン』を唱える。青年の体が炎に巻き込まれた。炎が晴れた時、青年は大やけどを負いながらも「うう……うう……」と呻き声をあげている。どうやら青年は見た目以上にタフらしく、モヒカンのおっさんや戦士のおっさんよりも受けたダメージは少ないらしい。
「おい、さっさとその兄ちゃんをアークプリーストのところに運んでやれよ!?」とオレはギャンに叫ぶ。
「うるさいですねぇ。言われなくても運んであげますよ」と言いながらギャンは指を鳴らして合図する。反応した部下と思われるアークウィザードたちが青年とともに転移魔法で消え去った。
「さて、残ったのはあなた一人のようですが……。どうしますか? 実験を受けないことも可能ですよ?」
「……受けるさ」
オレは実験台の上に移動する。
「さっさと始めろよ」
「威勢がいいですねえ。それくらいの方が盛り上がるにはちょうどいい。さて、攻撃係の方お願いします」
強大な魔力が攻撃係のアークウィザードの杖に集まって行く。……なんてエネルギーだ。ワルモン教司祭だったノウレッジくらいの魔力を感じる。アークウィザードってのはバケモンぞろいなのか……?
そんなオレの疑問をかき消すように呪文を叫ぶ声が放たれる。
「エクスプロージョン!」
オレの視界は塞がれ、高熱の爆風と爆炎が体を包み込むのだった。
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