第117話 自業自得じゃない
「お、おい! おっさん、大丈夫か!?」
真っ黒焦げになってしまったモヒカン男にオレは思わず声をかけるが、返事はない。
「ふーむ。どうやら意識を失ってしまっているようですねぇ」
怪しい笑顔の二枚目アークウィザードのギャンが分析するような目付きで下あごをさすっていた。
「おい、そこのアークウィザード! さっさとあのおっさんをアークプリーストのところへ連れてけよ! 死んじまうぞ!?」
「おや、これは失敬。あなたたち、転移魔法でその男を施設へ運びなさい」
ギャンは部下の魔法使いたちに指示する。モヒカン男が倒れている場所の地面に魔法陣が展開されると、間もなく男の体が消え去った。施設とやらへ転移されたらしい。
「さて、それでは二人目はどなたが行きますか?」とギャンが進行しようとする。
皆、躊躇していた。息を捲いていたモヒカン男が一瞬で真っ黒焦げに、しかも気絶してしまったのだ。いや、もしかしたら死んでいるのかもしれない。とんでもない魔法の威力を眼前にして、なかなか二人目の挑戦者は出てこない。モヒカン男が転移してから5分程たっただろうか。ギャンが口を開く。
「おやおや、皆さん怖気づいてしまわれましたか? ちゃんとアークプリーストが治療してくれるというのに。……どうやら帰ってきたみたいですね」
ギャンがそう言い出すと同時に転移魔法陣が再び展開された。そこにはさきほど大やけどを負ったモヒカン男が現れる。生きてたのか、よかったぜ。傷はきちんと治してもらったらしくやけどの痕は見られなかった。だが、心的外傷を負ってしまったのか、うずくまって動かない。
「御苦労さまでした。これは報酬の1千万エリスの小切手です。ギルドで換金できますからなくさないように」
ギャンがモヒカン男のそばに近づき、何やら紙を手渡す。アレが小切手か……。モヒカン男はギャンの手から小切手を素早く奪い取ると、またすぐにうずくまってしまった。どうやら相当に魔法攻撃が辛かったらしい。耳を澄ませると、「ひぃ。ひぃ」と怯え声にも似た息を吐き出しているのが聞こえた。
「くっ。お、オレは遠慮させてもらう」
「オ、オレもだ……!」
モヒカン男のうずくまった様相を見て、参加者の一部が荒野から去って行った。無理もない。モヒカン男はなんとか生き残れたみたいだが、全員がそうなるとは限らないからな。
「おやおや。逃げ出してしまいましたか。次の方はいませんか? 無理強いはしませんが……」
「オ、オレがいこう……」
鎧を身に纏った、ザ・戦士みたいなガタイの良い男が手を挙げた。顔には緊張が伺える。
「それでは実験台の上へお願いします」
実験台と言いやがった。いや、まあそれで間違いはないんだが……。やられる方としては気分が悪いぜ。
再び爆発魔法をかけるギャンの部下。戦士の悲鳴が響き渡った。
「うぎゃああああぁああ!?」
く!? 聞いてるこっちまで心が痛くなっちまう程の悲鳴だ。自分達で志願したこととはいえ、残酷だぞ。戦士はモヒカン男と同じく真っ黒焦げの大やけどを負っちまってた。……助かるのか?
モヒカン男と同じく転移魔法で消えた戦士が再び戻ってくるのにそう時間はかからなかった。戦士は戻ってくるとうずくまったままだ。『ひい。ひい』と息をしているのもモヒカン男と変わらない。
ギャンは戦士にも小切手を手渡すと、残った参加者である俺を含めた数人の方に視線を向けながら言い放った。
「さて、次の方」
にやりと笑っているハンサム顔……。なんだか腹が立ってくるぜ。自分達で志願したんだから自業自得だろ、怒りの矛先をギャンに向けるのが間違ってると言われそうだが……、そんなことはないさ。こいつは実験と言いながら人が傷付くのを楽しんでやがるに違いない。スルアムの街でイービルが指導と称して拷問をしていた時に浮かべていた笑みと同じだからな。くそったれめ。
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