第116話 実験動物

 オレ達が飛ばされた先はオレの見慣れた荒野だった。


「ここはマグイアの郊外か?」


 オレの呟きにギャンが応答する。


「ええ、その通りです。あまり離れ過ぎても不便でしてね。ここならどれだけ大きい魔法を使用してもマグイアの街に影響を与えることはありませんから」


 やっぱりか。暴れ牛狩りの時に何度も来たからな。知力が低いとはいえ、さすがに覚えてたぜ。周囲を見渡すと、先ほどまではいなかった魔法使い連中が立っていた。どいつも水晶を持っている。


「おい、こいつらは何者だ?」


 モヒカン男がギャンに尋ねる。オレも気になるぞ。


「測定員ですよ。これからあなた方に向かって放たれるのは最新魔法なんですよ? データ収集班を用意するのは当然でしょう?」


 なるほどね。こいつらはオレ達が魔法をぶつけられるのを待っているというわけか。完全に実験動物か何かだな、オレ達。


「さて、誰から攻撃をお受けになりますか?」

「ちょい待て」とオレが声をかける。

「また待ったをかけるのですか? 先ほどもあなたが声をかけていましたね?」

「当たり前だろ。こっちは命懸けなんだからな。……お前、優秀なアークプリーストを用意すると言ってたよな? そいつはどこにいやがるんだ? ぱっと回りを見る限り、そんなやつはいなさそうだが……」

「これは失敬。アークプリーストはマグイアの街に待機させています」

「なんでそんなことをする必要がある? ここに呼んでおいた方がすぐに治療できるじゃねえか」

「そんな危険な真似できるわけがないでしょう? ここはもしかしたら今から火の海になるのかもしれないんですよ? そんなところにアークプリーストを置いておけるわけがありません! 回復役を安全な場所に置いておくのはパーティを組む冒険者の常識でしょう?」


 すまんな。オレは冒険者の常識なんざ知らないんだよ。パーティも組んじゃいねえしな……と思ったが、今はかなたんが仲間みたいなもんか。


「もういいだろ!? 兄ちゃん、てめえ怖気づいたならさっさと尻尾まいて、帰って母ちゃんのおっぱいでも吸ってやがれよ!」


 オレに絡んできたのはモヒカン男だ。モヒカン男だけじゃない。他の大柄な冒険者たちもオレの方に冷めた視線を送っている。くそ、どうやらこの場に残った防御力、生命力に自信のある冒険者たちは皆、短気で単細胞らしい。ここをしっかり確認しておかないと騙されることになるぞ。と思ったが、口に出すことはしなかった。きっとこの冒険者たちも切羽詰まっているんだ。金がべらぼうに必要なあの街で生き残るにはなんとしても金を稼がないといけない。なりふり構っていられないんだろう。


「オレからでいいだろう!? 攻撃を受けたら一千万エリスくれるんだな!?」

「もちろんです。さて、ではあそこに立ってもらえますか?」


 ギャンは妙に真っ直ぐに切断されている岩の上ににモヒカン男を案内する。自然にできたものではなさそうだ。人工的に整地されているらしい。


「さて、では準備をして頂けますか、攻撃係の方!」


 アークウィザードと思われる黒い外套を被った男がモヒカン男の前に立ち、杖を構える。オレはそのアークウィザードが手に紅い宝石を握りこむのを見逃さなかった。握りこまれた紅い宝石から強い光が溢れだす……! 魔法に疎いオレでも分かるくらいの大量の魔力が流れだしている……!


「エクスプロージョン……!」


 アークウィザードの男が低い声でぽつりと呟く。瞬間、モヒカン男を爆炎が包みこんだ。


「うぎぃぃああああああああああああああああああああ!?」


 爆炎による濃煙が晴れたとき、そこに現れたのは大やけどを負ったモヒカン男の姿だった。

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