第115話 依頼主のギャン

 オレが依頼の集合場所に到着すると、そこにはいかにもな大男たちが集まっていた。皆、防御力と生命力に自信があるんだろう。


「皆さまお待たせしました。依頼主のギャンと申します」


 胡散臭そうとしか思えない笑みを浮かべた二枚目の魔法使いがそこに姿を現した。ザ・営業スマイルという感じだ。


「しがない魔術研究者のアークウィザードです。どうぞお見知りおきを……」


 ギャンとかいう二枚目は自己紹介を続ける。嫌な予感しかしない。こいつの表情、スルアムの悪徳宗教……ワルモン教司祭のイービルを思い出させるような顔だ。


「挨拶なんてどうでもいいんだよ! 何をしたらいくら金をくれるんだ!? オレの興味はそこだけだ!」


 いかにも短気そうなモヒカン頭の大男がギャンに向かって吠える。


「簡単なお仕事ですよ? 我々は攻撃魔法の研究を行っていましてね。新作の攻撃魔法の試し撃ちをしたいのです。そこで、高い生命力と防御力を持つ冒険者の皆さんにあえて攻撃を受けてもらい、効果の程を確かめたいのです」

「な、なんだと!?」


 大男たちがざわめきだす。そりゃそうだ。こんなもん、人体実験に付き合えって言ってる様なもんだからな。


「ご心配なく、優秀なアークプリーストをご用意しております。よほどのことがない限り死ぬことはないかと……」


 ギャンは胡散臭い笑みを崩さぬまま語り続ける。


「しかし、もちろん無理強いはできません。怖気づいた方は逃げ帰ってもらってかまいませんよ?」


 ……挑発的な言い方だな。冒険者ってのは体を張ることにプライドを持ってるやつらが多い。こんな言い方をされたら帰りづらくなるやつも出て来るはずだ。今後の仕事に影響があるやつもいるだろうからな。傭兵染みた仕事をしているやつは臆病者なんてレッテルを張られるわけにはいかない……嫌なとこをついてくるアークウィザードだな、こいつ。


 それでも、危険を感じたヤツらも中にはいるようで、残ったのは半分くらいか。


「あなた方は帰らなくても大丈夫なのですか?」


 残った10名弱の冒険者にギャンが確認を取る。もちろんオレは残った。逃げ出すのはもっと様子を見てからでいいしな。


「それでは契約成立ですね」

「ちょい待て」とオレは声をかける。

「なんです?」

「先に金をいくら払うか言ってもらおうか」

「おっと、これは失敬。報酬は一千万エリスです。攻撃を一回受けるだけで一千万エリス。破格の依頼でしょう?」

「……わかった」

「ご理解を頂けたところで移動を始めましょうか?」

「移動?」

「ええ。なんせ新しい攻撃魔法を受けて頂くんですよ? こんな街中で行う訳にいかないでしょう? ……フィクスド・テレポート!」


 オレ達の足元に青白い魔法陣が現れる。これは……スルアムからマグイアに異動した時に使った転移魔法と同じものか……!?


 オレ達冒険者一同は光に飲み込まれ、どこかに飛ばされるのだった。

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