第114話 依頼の代読
かなたんは俺が図書室から持ってきたありったけの資料をものすごいスピードで読んでいた。この娘、頭が切れるだけでなく、速読もできるのか。能力高過ぎだろ。魔法以外のことはなんでもできるんじゃないか、この子……。
「さすがはマグイアの魔導研究所。興味深い資料ばかりです」
かなたんはコーヒーをすすりながら呟いていた。ちなみに砂糖、ミルク多目である。研究者感を出したいのか、大人ぶりたいのか知らないが、無理にコーヒーを飲もうとしている気がするぞ。素直にジュースを飲めばいいだろうに。
「む? 何か言いたそうな顔をしてますね、カズヤ」
「いえ、何も言おうとしてないですよ。かなたん研究員殿」
オレは冗談で研究員殿と付けたのだが、かなたん本人も満更じゃなさそうな顔をしていた。素直にしぐさに出る娘である。得意気に口角を上げるかなたんは歳相応でかわいらしいもんだ。
「カズヤ、今日私は資料の読み込みに徹したいと思いますので外をぶらぶらしてきていいですよ」
「そうかい。そんじゃあ夕方くらいにまた迎えに来るよ。夜道に女の子ひとりで帰らせるわけにはいかないからな」
「あ、結構ですよ。今日はここに泊まるつもりですから」とかなたんは笑顔で言う。
「……かなたん、研究員になれたことが嬉しいのは分かるけど、あんまり無理はするなよ。健康が第一だからな」
「だ、大丈夫ですよ! それくらい分かっています。私ももうレディーですから!」
まだレディーからは程遠い胸を張った魔法使いガールに「そうかい」と声をかけてオレは研究所を後にした。
さて、オレもかなたんにおんぶに抱っこされ続けるわけにもいかない。働き先をみつけなくちゃあな。かなたんに借りる予定の金を早く返済できるようにしないといけない。
オレはギルドに立ち寄っていた。魔法文字でしか書いていない掲示板の前で眼を凝らす。もちろん、見えるようになるわけじゃないがオレの狙いはそれじゃない。
「お、そこの兄さん。魔法文字が見えないのですか?」
声をかけてきたのは、いかにも魔術師っぽい格好をした青年だった。狙い通り来てくれたな。
「ああ。オレは職業冒険者でさ。魔法文字が読めないんだよ。受付嬢が読んでくれるって言ってくれたが、代金10万エリスも要求してきやがったから断ったのさ。でも、こまったなぁ。誰かが読んでくれないものか。千エリスくらいなら払うんだけどなぁ」とオレはわざとらしく困ったフリをする。
「千エリスとはいかないが、五千エリスくれたら僕が読んであげますよ?」
よし、かかったぜ。かなたんに聞いたが、この魔法都市マグイアは魔法使いを志す者にとってメッカであるらしい。そのため、多くの魔法使いが一攫千金を夢見て来るそうだ。だが、実際に職にありつけるのは最上位職であるアークウィザードくらいらしい。そこで、最上位職でない魔法使いは魔法を使えない者を相手に小遣稼ぎをしているのだ。魔法文字の代読もその一つなのだそうである。初めてかなたんと会った時、かなたんがオレに声をかけたのも小遣いをもらうためだったらしい。もっとも、かなたんはその場で行き倒れてしまったわけだが。
……五千エリスか。まあ、落とし所だろう。一万エリスいってないからよしとするか。オレは青年に五千エリスを支払い、魔法文字で書かれた依頼を順に読んで行ってもらう。相変わらず、魔法を使えないオレには受けることが不可能な依頼ばかりだったが……、一つの依頼にめぐり合う。
「圧倒的な防御力、もしくは生命力を持つ者を募集しています。依頼内容は直接話します。……少し、怪しい依頼ですねぇ」
魔術師の青年は依頼文を読んだ後、自身の感想を口にする。防御力と生命力を求める。依頼内容は秘密。たしかに不気味な内容だ。だが、背に腹は代えられん。
「その依頼、報酬はいかほどなんだ?」とオレは青年に尋ねる。
「それすら、書いてませんね」
「そうか」
たしかに怪しい。しかし、全ての依頼を読んでもらったところで、俺が受けることができそうな依頼はそれくらいしかなかった。
「ちょっと行ってみるか」
オレは防御力と生命力だけを求める怪しい依頼の集合場所に向かうことにした。なぁに。本当にヤバそうだったら逃げ出せば良いだけの話だからな。
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