第112話 寝言

「絶対に殺したい男……?」


 かなたんがオウムのようにオレに聞きかえす。無理もない。殺したい男がいるなんて言ったらそんな反応にもなるだろう。オレが殺したいのはオレ自身なわけだしウソってわけでもない。


「……自分の命を払ってでも殺したい男がいるのですか?」

「ああ。絶対に殺さなきゃいけない奴なんだ。放っておいたら、罪のない人間も殺しかねない凶悪な奴さ。だが、とんでもなくタフな奴でな。オレの力じゃ殺せない。……だからデス・フェローを習得しなきゃいけないのさ」

「そうなんですか……。その男のことを教えてもらっても?」

「ダメだ。危ない奴だからな。かなたんみたいな女の子に教えるわけにはいかねえ」

「今時、女だから、危ないから教えられないっていうのは聞き捨てなりませんね」

「じゃあ、言い換えよう。厳しいようだが、魔法を使えないかなたんには教えられない。危ないだけだからな」


 ふう。かなたんのコンプレックスを抉るようで申し訳ないが、ここまで言えばもうこの質問から手を引くだろう。


「わかりました」


 そうそう、子供は聞き分けが良い方がいいんだぞ。


「私が魔法を使えるようになったら教えてもらえるんですね」


 ってアレ?


「え? あ、ああ。ま、まあそういうことになるかな?」

「じゃあ、決まりましたね。私がお金を貸す代わりにカズヤは私が魔法を使えるようになる方法を一緒に探す。そして、覚えた魔法で私がその男を倒してあげましょう! なーに、気にする必要はないですよ、カズヤ。仲間の敵はもちろん敵です。どんな悪い奴か知りませんが、そんな奴を葬るのにあなたが命を失う必要はありません! 私が魔法を覚えた暁には強力な魔法でその男を灰塵に帰してあげましょう! さあ、さあ、そうと決まったら今日は飲みますよ!」


 かなたんはテンションが高い様子でオレのグラスにシュワシュワを注ぐ。こ、こいつ出来あがってやがる……!


 その後、オレ達は浴びるように酒を飲み続けた。


「ちょっと、お客さん、もう閉店だよ!」

「ん……。うぅううん……」


 オレは店員の声で目を覚ます。どうやら飲み過ぎて店で眠っちまったらしい。


「す、すいません。すぐ出ます」


 オレは店員に頭を下げると会計を済ませる。


「おい、かなたん! 店出るぞ!」


 声をかけたが返事がない。かなたんは酔いつぶれているらしく、卓に突っ伏して眠っていた。どれだけ揺り動かしても起きる気配がない。


「しょうがねぇな」


 オレはかなたんを背負って店を出た。憲兵に出会ったらロリコンの変態が酔い潰させたように見えるかもしれないな。さっさとこいつの宿に送るか。


「すいませーん! この子を部屋に運びたいんですが……」


 オレはかなたんが宿泊している宿に到着するとオーナーさんに声をかける。


「ああ。このお穣ちゃんか。2階の一番奥の部屋だよ。鍵は魔法で勝手に閉まるから寝かせたら出て行くだけでいいからね」


 この宿、オレが利用しているところより2割程宿泊料が高いと聞いていたが、魔法のオートロックがあるのか。すごいな。しかも、外からは開けられるみたいだから本人確認的なことも魔法でできているのか? さすがは魔法都市マグイア。スルアムとは天地の差だ。


 オレはオーナーに聞いた通りの部屋にかなたんを連れていくとベッドに寝かせて部屋を出ようとした。


「……カズヤ……、死んだら、いけませんよ? 仲間は助け合う……ものです……」


 かなたんがむにゃむにゃと声を出す。……寝言か。……死んだらいけない、か……。……オレなんか生きていても……。……考えるな。アクエリを裏切ってまでスルアムを出てきたんだ。ワルモンを殺した時のことを思い出せ。お前は生きてたらまた、罪を犯すに違いないんだよ、カズヤ


 オレはかなたんの部屋を後にして自分の宿へと足を向かわせた。

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