第108話 頼られ好きのかなたん

「かなたん、何か良さげな依頼は見つかったか?」

「……うーん、なかなかありませんねぇ……」


 オレとかなたんはギルドの掲示板とにらめっこしながら、依頼を探していた。もっとも、魔法文字で書かれている依頼文を読めないオレはただただ、かなたんが探しているのを眺めているだけなのだが……。


「……ひとつだけ、受けることができそうなものがあるにはあるのですが……」

「本当なのか!? どんな内容なんだよ!?」

「『賢者の石の研究スタッフ』を募集しているようなのですが……」


 かなたんが言い淀むのでおれは、催促するように質問する。


「どうしたんだよ? なにか問題があるのか?」

「募集資格がアークウィザードであることなのですよ……」

「……なるほど……」


 かなたんが依頼に飛びつかないわけだな。この娘はアークウィザードではあるが……、ひとつも魔法が使えない。なんちゃって魔法少女だからな。魔法が使えないと依頼主に知られれば採用なんてされないだろう。


「仕方ない……。そういえば、前見てもらった時に実験体募集の依頼があったよな? 死ぬ確率1%のやつ。それまだ貼ってあるか?」

「な、何を考えてるんですか? あんな依頼を受けるつもりなんですか!? 正気とは思えません!」

「……今冷静になって考えてみると……、多分オレにとって一番適した依頼なんだよ。多分、オレ死なないし……」

「なんなんですか? その意味の分からない自信は!? 何にせよ私は仲間に自殺するような真似をさせる人間ではありません!」


 ……仲間、か……。かなたんはオレのことそんな風に思ってくれてたのか。口うるさい年上くらいにしか捉えられてないと思ってたんだが……。良い子じゃないか。


「とりあえず、私は賢者の石の研究スタッフの面接を受けます。もし受かったら、あなたには私の雑用をしてもらいます。いいですね?」

「そりゃ、オレとしちゃ、ありがたいことこの上ないが……、良いのか? 魔法を使えないアークウィザードだってこと知られて傷付いたりしないか?」

「……私を心配してくれているんですか……? な、なめないでください! 私はそんなやわな女ではないのです!」

「それで、報酬はいくらなんだ?」

「月収五千万エリスだそうです」

「よし、すぐに面接を受けるんだ」

「き、金額を聞いた途端にすぐに受けろとは何事ですか? 少し見なおしたところだったのに! だいたい、私が働くんです! 怒りますよ? 稼いだお金、分けませんよ?」

「すいません、依頼を受けてください。お願いします。そして雑用でもなんでもしますから、一緒に働かせて下さいぃいいい!」


 オレがかなたんに泣きつくと、かなたんは得意気に笑いながら鼻息を荒くする。


「仕方ないですね。働かせてあげますよ。私に感謝すると良いのです!」

「なぁ。お前ってさ……」

「なんです?」

「人から頼られるのが大好きなんだな」

「はぁ!?」


 この怒り方図星だな。オレがパーティに入ってくれるように頼んだ時も「やはり、私の力が必要なのですね」みたいなことを言ってたしな。あの時のあれはプロレスの掛け合いみたいなものだったけど……。こいつの願望の表れだったんだろう。


「もういいです! あなたのことは見捨てます!」


 かなたんはぷんぷんと怒ってギルドを去って行く。


「すまぁああん! オレが悪かった! 一緒に働かせてくださぁあああい!」


 オレは全力で謝罪しながら、かなたんの後を追うのだった。

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