第107話 魔道具店ウィズ閉店のお知らせ

「うわあああああああああああああああああ!!」

「突然大きな声を出さないで下さい。一緒にいる私まで頭がおかしいと思われます」


 かなたんがため息を吐きながら、見下すような目をオレに向ける。なんでこの魔女っ子はこんなにも焦りがないんだろう? お前も他人事じゃないんだぞ!


 高額な代金を払い馬車を購入したオレ達だが窮地に追い込まれていた……。ここ五日ほど、まったく暴れ牛を狩ることができていなかったのである。理由はわからないが、暴れ牛はマグイア郊外に現れなくなってしまっていた。香水を捲いても全く出てこない。当然、オレ達の収入はゼロ……。このままでは一ヶ月後に迫った馬車代の支払いができずに多額の借金を抱えることになる。そのことを想像し絶望したオレは、暴れ牛狩り帰りの馬車の荷台で思わず大声を出していたというわけだ。


「大体、お前なんでそんなに他人ごとみたいなんだよ!? このまま稼ぎがなかったら、お前も借金払えないだろ!?」

「実際、他人ごとですから。たしか、この馬車はカズヤ名義で買ったので、私には何の御咎めもないはずです」

「ま、まさかお前、オレを見捨てる気かぁあああ!?」


 オレはかなたんの両肩を掴むとぶんぶん揺さぶる。


「ちょっと落ち着いてください! さすがのわたしもそこまで冷血ではありません。一緒に借金返済の方法を考えます。まあ、最悪の場合は見捨てますけど……。そもそも元はと言えば私の忠告に耳を傾けずに馬車を買ったあなたに落ち度があります」

「うぅ……」


 オレはかなたんに正論を言われて落ち込む……。この魔女っ子は俺よりも冷静だったんだな。いや、少し考えれば借金を抱え込むリスクはわかったはずなんだ。クソ! オレの知性を自分レベルにした女神アクアが恨めしい!


「……はぁ……」

「落ち込んでばかりいても仕方ありません。この状況を打破する方法を考えないと……」

「そうだな。切り替えないとな……。とはいっても落ち込むよ……。親父みたいにはなりたくないと思っていたのに結局、オレも借金をしてしまいそうなんだから……」

「カズヤのお父さんも借金していたのですか?」

「ああ……。借金こさえてオレとおふくろを残して蒸発しやがったんだ。あんなクソ野郎みたいにはなりたくないと思ってたのに……。図らずとはいえ、親父と同じことしてる自分が情けねぇよ」

「そうですか……。カズヤも恵まれずに生まれたのですね」


 オレがかなたんに親父の話をしている内に馬車はマグイアのギルドに到着していた。オレ達はウィズさんの魔道具店に向かうことにした。今日の狩りで暴れ牛をおびき寄せる香水が少なくなったので補充するのが目的だ。暴れ牛がいなくなり、狩りができていない状況だが……、いつ暴れ牛が戻ってくるとも限らない。買っておく必要がある。


「あれ……? 魔道具店ウィズ閉店のお知らせ……? ウソだろ!?」


 魔道具店ウィズがあった店舗は空となり、テナント募集の張り紙の横にチラシが貼られていた……。


「そ、そんな……。もう暴れ牛の香水のストックが少ないのに……」

「……このお店、破格の安売りをしていましたからね……。家賃を払えずに引き払ったのでしょう……」

「かなたん、なんでお前そんなに冷静なの? 香水が買えなかったら暴れ牛狩りができないんだぞ!?」

「これも神の思し召しですよ。もう暴れ牛狩りはあきらめなさいと言っているのです。別の方法でお金を稼ぎましょう」


 そう言うと、かなたんはどこかへ向かい歩き始めた。


「おい、かなたん! どこに行くんだよ!?」

「ギルドですよ。掲示板に私たちでもできる仕事がないか確認に行くのです。ほら、早くついてこないと置いて行きますよ?」


 かなたんはすたすたとギルドに向かって歩いて行く。オレは慌てて後を追いかけるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る