第105話 良い女には秘密があるものなのです
「行ったぞ、かなたん!」
「まかせてください!」
紅魔族のアークウィザード(魔法スキルなし)のかなたんが暴れ牛の角を掴みしっかりと抑えた。ちびっ子が巨大な牛を腕力で押さえこむ……。何度見ても信じられない光景だ。
「いいぞ、かなたん! そのまま耐えるんだ!」
オレは腰に携えた短剣を抜くと、暴れ牛の弱点である眼球を貫く! 弱点を突かれた暴れ牛はその場でコテンと倒れ込む。
「よし! 今日のノルマ達成だな! 荷車に乗せてギルドに行こう!」
オレとかなたんは荷車に暴れ牛を積むと魔法都市マグイアのギルドへと走らせる。
「いつもお疲れ様です。二頭合計で二百万エリスになります!」
「ありがとうございます!」
美人の受付嬢が満面の笑顔でお金を渡すので、オレも満面の笑顔で倍返しする。
「鼻の下が伸びてますよ。下心が見え見えなのです。気色悪い……」
「鼻の下なんて伸ばしてねえよ!」
暴れ牛狩りをかなたんと始めてから早くも十日が経った。オレ達の狩る暴れ牛は質が高いと噂になり、しばらくすると、買値が一頭五十万エリスから一頭百万エリスに上がったのだ。見たか、雑な仕事をしていた奴らめ。これがプロの暴れ牛ハントだ。
そんなわけで質の高い狩りをするオレ達はギルドのお得意様になっていた。この受付嬢さんとも顔見知りになっている。
「さて、それじゃあいつも通り……、かなたんは百万エリスな」
「確かに受け取りました」
オレとかなたんは暴れ牛狩りの報酬を二等分にすることにしていた。それが一番平等だしな。パーティを組む以上、揉め事は少ない方が良い。
「今日もあのボロ宿に泊まるのか?」
「ええ、もちろんです。宿泊費は安いに越したことはありませんから」
かなたんとオレは相変わらずこの街で一番安い宿に泊まっていた。さすがにいつも同じ部屋に泊まるというのは気が引けたので別室をそれぞれ借りることにしている。かなたんと一緒の部屋で泊まる時の他の宿泊者や仲居さんの目が気になったからな! あれはオレをロリコンだと疑っている目だった。
「もうちょっと金出してもう少し良い宿にしたらどうだ? オレは男だからいいけど、あんな汚い宿所なんてイヤじゃないのか?」
「私には目的がありますから。それ以外にお金を使うのはなるべく抑えたいのです」
金を抑えたい、か。そうだろうな。こいつ昼食、夕食はよくオレにタカりやがるからな……。あれ? これ実質かなたんの方が取り分多いってことにならないか? そのことに気付いたオレだが、あえてかなたんには話さない。オ、オレは器の大きい人間だからな!
「そんなに金を節約してまで果たしたい目的ってなんだよ?」
「……良い女には秘密があるものなのです」
「なーにが、良い女だ。このロリっ子め」
「わ、我はロリっ子などではありません! 大人の女なのですよ!?」
「はいはい、わかった、わかった」
「あなたこそ、何が目的でこの街にいるのですか? 見たところ、魔法使いを目指しているわけでもなさそうですし」
「オレは習得したいスキルがあるんだよ。たくさんのスキルポイントが必要なんだ。だから、なるべく効率的にスキルポイントを獲得したくてな。その方法を探しにこの街に来たんだ」
「ふーん……。それでどんなスキルを習得しようとしてるんです?」
「……色男には秘密があるもんなんだよ……」
「あなたも秘密があるんじゃないんですか」
かなたんは『はあ』とため息を吐く。まさか、『死ぬためにデス・フェローを習得しようとしている』なんて、こんなこどもに言う訳にはいかないからな。
「……それで、ホワイトドラゴンの肉を大量に食べていることがあるんですね……」
「なっ!? お前何で知ってるんだ!?」
「この前、街で見かけました。スキルポイントが欲しいのは分りますがあまりホワイトドラゴンの肉を食べ過ぎるのはおすすめしませんよ? あれはまず過ぎて寿命が縮みますからね」
そう言い残すと、かなたんは人ごみに入って行く。
「明日もいつもの場所だからな。寝坊するなよ!」
「わかってますよ」
「あと、無駄遣いせずにちゃんと貯金しとけよ! 予定通り、一ヶ月後には馬車を買う予定なんだからな! 半分ずつ費用だすんだからな!」
「わかってますよ! こども扱いしないでください!」
かんたんはちょっと怒った顔をしながら魔法都市マグイアの街に消えて行った。
「……『寿命が縮むからホワイトドラゴンの肉はおすすめしませんよ』、か。オレが死にたがってるって聞いたら驚くんだろうな」
オレはホワイトドラゴンの肉を食いに行くつもりだったのだが、かなたんの忠告を無視するのは悪い気がしたので、この日は普通の定食で腹を満たしたのだった。
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