第102話 魔道具店ウィズ マグイア店

「よし、そしたらまずは、道具の調達だな!」

「なんか、変な気合が入ってますね……。少し気持ち悪いです……」

「おい、辛辣すぎるだろ。それにどこが気持ち悪いってんだ!?」

「変にテンションが高いところですかね……」


 かなたんに謂れのない悪口を言われながら、オレ達は魔法都市マグイアをうろうろしていた。掲示板に暴れ牛討伐の依頼が書かれていることがわかったオレは意気揚々と準備にとりかかったのだが……そうそう上手くいかないのがこの世の常だ。


「……馬車借りるのに百万エリスだと……? ふざけんじゃねえよ!」


 本当にこの街は何をするにも金がいる。ギルドで馬車を借りることを諦めたオレは商店街で馬車の代わりになるものはないかと探し回っていたのだ。


「ねえ、ねえ、カズヤ! アレなんてどうです?」


 かなたんがオレの袖を掴んで引っ張りながら何かを指さす。指の先にはそこそこの大きさの荷車が売られていた。確かにあれなら暴れ牛2体くらいなら乗せることができそうだ。……というか、この魔女っ子、今オレのことを呼び捨てにしたな? オレの方が5才は年上だろ! さん付けしろ! と叫びたかったが器の狭い人間だと思われそうなのでやめることにした。


「店主さん、そこの荷車を買いたいんだけどいくらかな?」

「らっしゃい、兄さん! 八十万エリスだ!」

「え?」

「八十万エリスだ! 普通なら百万エリスはくだらない代物だぜ! お買い得だろう?」

「そ、そうですね……」


 オレはその場をそそくさと後にする。


「どうしよう……。お金なさすぎて暴れ牛討伐に辿り着かないんだけど……」

「はぁ。甲斐性のない男ですねぇ。カズヤは……。あれくらいぽんと買えないんですか?」

「五千エリスしか持ってねえお子様にだけは言われたくねえよ!?」


 オレ達の予算はオレが持つ約四十万エリスにかなたんの持つ五千エリスのみ……。このままでは今日の宿さえとることができない。しかし、暴れ牛を運ぶ方法がなくてはどうにもならない。オレの筋力では、とてもじゃないが暴れ牛の巨体をギルドまで運ぶことは不可能だ。


「おい、かなたん! お前、転移魔法とかそういう牛を運ぶのに有効な魔法は使えないのか?」

「使えません!」


 く、万事休すか……、と思いながら歩いていると、オレの目の前に懐かしい看板が目に入って来た……。


「え? 『魔道具店ウィズ マグイア店』!?」


 間違いない美人で巨乳のウィズさんのお店だ! スルアム店と書かれていたであろう看板の上から板を打ち付け、マグイア店と書き直している……。ウィズさんなら商品を安く譲ってくれるかもしれない……! オレは一縷の希望を持って店の中に入った……!


「あぁあああ! カズヤさんじゃないですか!? お久しぶりです! 元気でしたか!?」


 美人のウィズさんが眩しい笑顔で出迎えてくれた。


「お久しぶりです! ウィズさん! スルアムからこの街に店を移していたんですね!?」

「はい……。スルアムの街では全くアイテムが売れませんでしたから……」


 そりゃそうだろうな。貧民の街スルアムで普通の値段でアイテムを売り出しても誰も買わないだろうからな。この街に店を移したのはきっと英断に違いない。


「そちらのかわいらしい魔法使いさんは……、まあ! 紅魔族じゃないですか!? お名前は?」

「我が名はかなたん! 紅魔族随一の天才にして、最強の魔力を宿す者……!」

「かなたんさんというんですね! どうぞうちの店をごひいきにしてくださいね!」


 ウィズさんは紅魔族の名乗りに慣れているんだろうか。オレとしては聞いているこっちが恥ずかしくなるからやめてほしいんだがな。オレは店内を見渡すとすぐに異変に気付いた。


「しょ、商品が全然ないじゃないですか!?」


 魔道具店ウィズの商品棚にはまばらにしか商品が置かれていなかった。


「ええ、ありがたいことにほとんど売れちゃったんです! 私こんなの初めてで……!」


 ウィズさんは目に溢れた涙を人差し指で拭う……。よかった、よかった。……ん?


「あ、あの、ウィズさん……。ここに値札が残っているんですが……『レプリカちゅんちゅんまる』五十万エリスで売っちゃったんですか……?」

「? はい! それはもう飛ぶような勢いで売れていきました!」


 笑顔で語るウィズさんだが……、それってまずくないんだろうか。スルアムの時と同じ値段でこのマグイアでも売り出したのか? 家賃とかあるだろうし、もっと高く売った方が……、いや、ヒトの商売に口を出すのは野暮だろう。

 オレは自分達の用事についてウィズさんにお願いした。


「オレたち、荷車を探しているんです。あと、できれば前購入した暴れ牛を引き寄せる香水もほしいのですが……」

「荷車ですか……。もう使ってないものがあるのでお譲りします。あと、暴れ牛の香水もまだ残ってますよ」

「それはありがたい……! おいくらですか?」

「そうですね……。五万エリスといったところでしょうか……」

「頂きます! ……ちなみになんですが……、スルアムの街で購入した魔法を込めた防具って今あります?」

「すいません……。そちらは今品切れなんです……。造るのに6ヶ月はかかる代物でして……」

「そうですか……」


 あんな反則級の能力を持っている防具だ。造るのに時間がかかるのは当たり前か……。というか、そんなものをたった五十万エリス程度で売ってくれていたのか……。おかげでオレはワルモンに勝てたわけだから感謝しなきゃいけないな……。

 オレは荷車と香水を購入し、魔道具店ウィズを後にした。向かうはマグイア郊外の荒野だ。そこに暴れ牛たちが生息しているらしい。


「あのお店大丈夫でしょうか。あんな安売りして、儲けが出ているんでしょうか?」


 こんな小さな魔女っ子にも心配されるとは……、ウィズさん、頑張ってください。僕は陰ながら応援していますからね! この素晴らしい魔道具店ウィズの繁盛を!

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