第二部 魔法都市マグイア

第101話 かなたん

 オレ、鈴木和哉は魔法都市マグイアの大衆食堂を訪れていた。オレが座っているテーブルには料理を食べ終わって空いた皿が大量に積み上げられていた……。もっとも、オレが食べた分は数皿で、他の大部分は目の前で飯にがっついている黒髪の魔女っ子が食べてしまったのだが……。


「ふぅうう。生き返りました! こんなに食べたのは久しぶりです!」

「オレもこんなに食べる女の子は初めて見たよ……」


 オレはギルドで行き倒れになっていたこの魔女っ子を見捨てることができず、飯だけでも食わせてやろうと、マグイアで一番安いこの食堂に連れて来たのだが……、こいつ何の遠慮もなく、たらふく飯を食いやがった……。十万エリス分は食ったんじゃないか?


「さて、お腹いっぱいにしてもらったお礼です。あなたのパーティに入ってあげましょう!」


 ……えらく上から目線だな。この魔女っ子……。


「いや、良いよ……。オレは冒険者の中でも最弱の職業の『冒険者』だし……。君はアークウィザードなんだろ? 別の人とパーティを組んだ方が……」


 オレがトゲのないようにお断りを入れようとすると、魔女っ子は目に涙を浮かべる。それに気付いた周囲の奴らの冷ややかな目線がオレに突き刺さる。


「おぉおい、泣くのはやめろ! オレが子供を泣かせてるみたいじゃないか! わかった、パーティに入って下さい! お願いします! だから泣き止んで!」

「はっはっはっは! やはり、紅魔族随一の天才である私の力が必要だというのですね! 良いでしょう! 一度断ろうとしたその態度は許してあげます! パーティに入ってあげましょう!」


 しおらしく涙を浮かべていた姿はどこへやら……、魔女っ子はポーズを決めながら立ち上がる……。嘘泣きしてんじゃねえよ!


「……それで、紅魔族の……名前まだ聞いてなかったな。取り合えず名前を教えてもらえる?」

「我が名はかなたん! 紅魔族随一の天才にして最強の魔力を宿す者……!」

「……は?」

「我が名はかなたん!」

「……馬鹿にしてんのか?」

「違わい!」

「……そうか! 愛称だな? 悪いがまずは本名を……」

「本名ですよ! わ、私の名前に文句があるなら聞こうじゃないか!?」


 魔女っ子の話を聞くと、この魔女っ子……かなたんの一族である紅魔族は一族揃って変な名前のようだ。もっとも、紅魔族の人たちはかっこいい名前だと思ってつけているらしい。感性を疑うな……。


「さて、オレとパーティになった以上は金を稼いでもらう。なんせ、今オレが所持している金は四十万エリス……。物価のクソ高いこの街じゃ一晩こすのも難しい額だからな!」

「ええ良いですよ! 私も五千エリスしか持ってませんからね! 私の力を貸してあげましょう!」


 ない胸を突きだし、自信満々にかなたんは声を張る。どこからその自信が来るのか知らないが、オレと違ってかなり前向きな性格っぽいな……。見習わなくては……。


 オレとかなたんは早速ギルドに戻り、掲示板の前に行く。相変わらず、オレには何も書いていないようにしか見えない。受付嬢が言うには魔法文字とかいう特殊な文字で書いてあって、一定の実力を持つ魔法使いにしか見えないらしい。


「かなたん……、何て書いてあるのか読めるのか?」

「もちろんです! 私は紅魔族随一の天才にしてアークウィザードなのですよ? 魔法文字くらい朝飯前です!」


 なんと頼もしい言葉か……! この少女と組んだのは正解かもしれない!


「それで……、何が書いてあるんだ?」

「そうですね……。不老不死の研究者が募集されてます……」

「そんなのオレには無理だ! 他の奴!」

「賢者の石の生成方法の研究者募集……」

「無理!」

「魔力凝集の研究者募集……」

「だーかーら! 無理! オレは魔法を使えないから! 体を張った仕事しかできないの!」

「わがままですね……。あ、実験体募集って書いてありますよ。死ぬ確率1%の新薬を服用するみたい……」

「嫌に決まってるだろ!? そんなの!」

「そんなこと言っても、魔法使いじゃない人間が受けられる依頼なんて……。……これならどうです? 暴れ牛討伐、一頭持ち帰るごとに百万円……。でも暴れ牛って攻撃力高いらしいですから……。あなたには無理そう……」

「それだああああああああああああああああああああ!」


 オレは大声を上げて叫ぶ! かなたんはオレの大声にビクっと反応する。驚かせて悪かったな。だが、幸運だったぜ。これでなんとかなりそうだ……!

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