第94話 歪んだ本性
「クククク……、ハハハ……、アハハハハハ!!」
……なんだ? 誰の声だ……? 不愉快な笑い声が聞こえる……。ワルモンの声でも……デモンズやイービルの声でもない……。だが……えらく聞き慣れた声の気がする……。……というか、オレはどうなったんだ? たしか、バザークのスキルを使ってそれで意識を失ったんだ……。奴は……ワルモンは倒せたのか……? そもそも、オレは生きているんだろうか? まだ、まどろみの中にいるような感覚だ……。意識が覚醒されない……。
「ククク、フクシュウ、フクシュウ……、コノクダラナイセカイニフクシュウヲ……!」
不愉快な笑い声の男は奇妙な言葉を紡ぐ……。コノクダラナイセカイニフクシュウヲだって? 俺みたいなことを言う奴だな……。……オレみたい?
遠くから誰かを呼ぶ声がする……。これも聞いたことのある声だ……。……十司祭第三司祭のノウレッジの声だ……。声まで男前とは恐れ入る……。……誰を呼んでいるんだ? オレは耳を済ませる……。
「…………殿、…………ヤ殿! ……ズヤ殿! カズヤ殿!」
ノウレッジの呼びかけが鮮明になったその時、オレの意識はまどろみから解放され覚醒した……。
「え?」
不愉快な笑い声……、それを発していたのは他でもないオレだった……。
「ノウレッジ……、オレは一体……?」
オレはノウレッジの方に振り向く……。そこには悲痛な表情でオレを見るノウレッジの顔があった……。
「正気を取り戻したのですか……!? ……もういい、もういいのだ、カズヤ殿……。カズヤ殿の怒りは十分にワルモン教に伝わった……。それ以上はもう……」
……オレは自分の手元に視線を向けた……。……そこには……紅い血に染まったオレの両拳と元の原型をとどめていない何かの肉塊が存在している……。
「な、なんだこの死体は!? オ、オレは一体何を……? っ痛!?」
激しい頭痛がオレを襲う……。次第に痛みが薄れていくが、それと同時にオレの記憶がフラッシュバックされる……。そうだ、オレはバザークを使ってから、ワルモンを殺して、それで……。だんだんと思いだされていく記憶……。不愉快な笑い声を出しながら、ワルモンの死体を殴り続けるオレの姿が脳裏に映し出されていた。
「……そ、それじゃあ、この死体はワルモン……!? オ、オレは……。……うっ!?」
オレは余りにもグロテスクになり果てたワルモンの死体を直視し、吐き気を催す……。こ、こんな死体を弄ぶような行為をオレがやったのか……?
「ノ、ノウレッジ……。この死体は……ワルモンの死体をボロボロにしたのはオレ……なのか?」
ノウレッジはオレから視線を逸らし、俯く……。ノウレッジのその行為はオレの問いを肯定するには十分だった。
「そ、そんな……。オレが、こんな……」
確かにオレはワルモンを殺すつもりだった……。だが、死体をぐちゃぐちゃにするつもりなんて……死者を弄ぶつもりなんてなかった……。たとえ、悪魔相手だとしても、悪人相手だとしても、超えてはいけない線はある……。オレの死体損壊行為はそんな線を軽々越えていく邪悪なものだ……。
「……カズヤ殿、気に病んではいけない! バザークは本性を強く浮かび上がらせ、理性を失ってしまうスキル……。こうなることは仕方がなかったのだ……」
「それが……駄目……なんだよ……! あ、あああああああああ!!」
オレは跪いて、両拳を地面に叩きつけ、ノウレッジに八つ当たりの言葉を投げてしまった……。……本性を強く浮かび上がらせる……。だからこそ問題なんだ……。オレの本性は死体を死体とも思わない……憎しみを晴らすためなら、どんな残酷な行為もしてしまう……そんな歪んだものであることを『バザーク』が証明してしまったのだ……。…いや、証明してくれたと言った方が良いのかもしれない……。
オレは立ち上がり、ノウレッジに背を向け、歩き始めた……。
「カズヤ殿、どこに行くのだ!? ……アクエリがあなたを待っている……! 共にスルアムの街に行こう。このスルアムがワルモン教から解放されたのだ……。その報告をしなければならない……。解放の立役者であるそなたが行かずしてどうするのだ!?」
「……悪い、ノウレッジ……。報告はアンタに任せる……。……アクエリのことも……。オレには成し遂げねばならないことがあるんだ……」
オレは止めていた足を再び動かした……。もう、アクエリには会わない……。会ってしまったら……、また決意が揺らいでしまいそうだから……。
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