第92話 バザーク

「……能力の変化がオレ様の専売特許じゃない? てめえも能力変化のスキルを得たってのか? クク、それじゃあ、是非教えてもらおうじゃねえか、オレ様の……ガーゴイルの固有能力に匹敵するスキルってやつを……!」

「……言われなくてもな……!」


 オレは再生した左拳を握りしめ、覚悟を決める……。このスキルが通じなければ……、オレに勝つ手段はない。スキルを使うことに迷う必要も、迷う暇もない。ウィズさんがかけてくれている魔法……、ワルモン曰く、『一定時間ダメージを無効化する魔法』……これが発動している間に勝負を付けなくてはならない……!

 オレは大きく深呼吸をし、眼を瞑った……。瞼の裏に沢山の人たちが映る。病気の娘を亡くしたおっさん、法外なお布施を払わされていた住人たち、アクエリに無理矢理石を投げさせられていたアクシズ教徒たち、……ノウレッジ、ぽいずん、ヘクセライたちも……住人たちとやり方こそ違うが……騙されていたんだ。オレの知らないところで『贄』にされたり、粛清されたりして死んだ人達もいるだろう……。そして、なによりアクエリたち……。多くの人々がワルモン教に最愛の人を殺されたり、不幸にさせられたりしただろう……。きっと皆、自身の手でワルモン教に復讐の刃を立てたかったに違いない。だが、悪いな……。ワルモン教に復讐の刃を向け、成し遂げるのは俺だけだ……。……復讐の汚名はオレが着させてもらう……!!

 オレは眼をカッと大きく見開き、スキル名を告げる……!


「『バザーク』!!」

「ば、馬鹿な!? バザーク……だと!?」


 ワルモンがオレのスキル名を聞き、驚愕している……。しかし、オレは奴に答えてやれるほどの余裕はなかった……。頭の中をハンマーで殴られたような激しい頭痛がオレを襲う……。


「う、ぐ、うう……が、ガアアアアアアアアアアアア!」


 痛みに耐えきれず、オレは獣の様な叫び声を垂れ流す……。薄れる意識の中、『これが副作用か』と心の中で呟く……。オレの体から禍々しい紅いオーラが溢れ出る……。……オレに……歪んだ魂にお似合いの色じゃねえか……。……紅いオーラがオレの体を包むと、今までに経験したことの無い感覚が伝わる……。力が溢れてくるというのはこのことをいうのだろう……。……爽やかさとは反対の不快な感覚だ……。……だが、頼むぞ……。『理性を失ったオレ』よ……。絶対にこいつを……ワルモンを倒してくれ……!

 オレはオレ自身に祈りを捧げると、悪意の感情に押しつぶされる。オレの意識は途切れたのだ……。

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