第90話 緑の光に包まれたテロリスト
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―― スルアム教会跡地 ――
「はあ……」
月明かりに照らされた一匹の悪魔が大きなため息を吐く……。
「やっと、終わったか……。このワルモン様にここまで手間をかけさせるとはな……」
自らのことをワルモンと呼ぶ悪魔は唾を地面に吐きながら、文句を垂れる……。
「さすがはワルモン様……、我らがワルモン教に仇なす逆賊どもを始末していただき、ありがとうございます……」
「デモンズちゃんよう、いくらオレが活きのいい『贄』を欲しがってるつってもよう、今回はやり過ぎだぜ?」
「申し訳ございません。以後気を付けさせていただきます……」
地下から出てきた男……、デモンズと呼ばれた司祭服を着た男はワルモンに深ぶかと礼をする……。
「ワルモン様、私は治癒魔法については門外漢ではございますが……回復魔法をかけさせて頂きたいと思います。よろしいでしょうか……?」
「おう、頼むぜイービルちゃん」
デモンズと同じく司祭服を着ている男……、イービルと呼ばれた男はワルモンに回復魔法をかける。ワルモンの傷は次々と癒えていく……。最も重傷だった左大腿部の傷もそれほど時間がかからずに治る……。ワルモンはその場で軽く跳びはね、体の状態をチェックした。
「完璧だ……。感謝するぜ? イービルちゃんよう」
「お褒めに預かり光栄でございます……」
ワルモンは周囲を見渡してから、口を開く……。
「また、教会を作らなきゃならねえなあ。メンドくせえ……」
「……地下に隠してあった我がワルモン教の財産は傷一つ付かずに残っております……。すぐにでも再建可能でございます……」
「ホントかあ? 教徒兵も自警団もこの爆発に巻き込まれて死んじまったんじゃねえか?」
「そんなものは、王国のならず者たちを金で釣ればいくらでも作れますので……」
「そこんとこはデモンズちゃんとイービルちゃんに任せるぜ? 好きにやってくれや」
デモンズとイービルは右掌を胸に当てながら、ワルモンに最敬礼をする……。
「それにしても、腹が減ったぜ……。早いとこ次の『贄』を用意してくれよな? デモンズちゃんよう」
「それについてですが……、どうやら用意するまでもないかと……」
「ああ? どういうことだ……」
「あちらをご覧ください……」
デモンズは視線を教会の入り口……があった方向に向ける……。入口があったさらに先、爆発の影響がほぼなかった場所……ワルモンが眼を凝らすと、そこには、倒れた教徒兵や自警団、そしてノウレッジを始めとした十司祭の姿があった……。
「……どういうことだ? なぜ奴らがあんなところに……」
「どうやら、ノウレッジの奴が爆風を喰らいながらも転移魔法で移動したようでございます……。しかし、動いていないところを見ると、ダメージがなかったわけではないようですな……」
「なるほど、あの男前の兄ちゃんを『贄』にするってわけか……?」
「ノウレッジだけではございません……。ぽいずんもご賞味ください……。表立って反乱を起こした者を生かす必要はございませんので……」
「そうか……。クク、今夜はパーティだな……」
ワルモンはノウレッジたちのいる場所へ歩みを進めようと足を一歩動かした……その時だった……。
「待てよ」
若い男の声が聞こえた……。デモンズもイービルも、そしてワルモンも聞いたことのある声だった。だが、その男が生きているはずがない。いかに人間離れした防御力と治癒力を持っているとはいえ、ワルモンが起こした一度目の大爆発で左腕を失う重傷を負っていた。それでなくても、体中ボロボロだったはずだ……。そして、二度目の大爆発……、あの男は至近距離で爆発のエネルギーを受けた。一度目の爆発で受けた傷に治癒が追い付いていないことはワルモンも、デモンズもイービルも確認している……。到底生きていられるわけがない……!
しかし、確認しなくてはならない。ワルモン達3人は額に冷や汗をにじませながら、声のする方向に顔を向ける……。
「て、てめえ。なんでまだ生きている!? それにその光は……?」
そこに立っていた男は……ワルモン教に牙をむいたテロリスト……。緑の光に包まれた、『人外』ことスズキ・カズヤであった……。
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