第89話 気付くのが……遅すぎる…………

 辺り一帯が爆炎に包まれる……。高熱で教会の瓦礫さえも溶けていく……。オレはようやく、冒険者カードを胸元から取り出していた……。『例のスキル』をカードの画面を動かして見つけ出す……。だが、もう取得する必要はなさそうだ。この爆炎だ……。さすがの奴も生きていられるはずが……。


「あ、ああああ……」


 嘘だ……。そんな馬鹿な……。炎が薄まり、影が見えて来る……。尖った角、耳……奴のシルエットだ……。


「ぐふっ……」


 ヘクセライが口から鮮血を吐きだす……。口からだけではない。鼻からも耳からも眼からも……血を流している……。


「こ、この老いた身では……い、命を捧げても奴には届かんというのか……?」

「クソジジイ……! 炎に強いガーゴイルの中でもさらに優秀なこのオレ様にやけどを負わせるとはなぁ……。さすがにイライラしてきたぜ……」


 ヘクセライは杖を地面に突き刺し、なんとか立ち続けた……。だが、限界が近いのは誰の目からみてもわかる……。


「ま、魔王軍との戦いで己の無力さを知ったワシは……、スルアムの街を裏切り、友を裏切り、家族さえも裏切り、ワルモン教に入って魔導の探求に努めたというのに……。全てはこの時のため、街に害を与える強大な魔族が襲って来たときに滅ぼすため……そのためだけに後ろ指を刺される人生を選んだというのに……。この様とは……。……女房、子供に顔向けできんわい……。……む、無念……」


 ヘクセライは力尽き、前のめりに倒れる……。絶命したのは明らかだった……。


「ヘクセライ殿ぉおおおおおおおおお!」


 ノウレッジが叫ぶが、返事はない……。


「あーあ、自滅かあ。面白くねえ死に方しやがって……。……イライラするぜ……」


 オレは震える手でスキル習得のスイッチを押す……。まるで体が……遺伝子が書き換わるような感覚がオレに伝わる……。何度スキルを習得してもこの感覚には慣れない……。……スキルは無事に取得できたようだ……。オレの持つスキルポイントのほぼ全てを使う十万ポイントのスキル……。取得後、一度しか使えないスキル……。しかし、オレの体は動かない……。いくらスキルを覚えられても体が動かないのではどうしようも……。


「この技を一日に2度使うのは初めてだ……。てめえら、跡形もなく消し飛ばしてやるよ……!」

「イービル! 地下に逃げるぞ……!」


 デモンズとイービルは地下に逃げる……。ワルモンは四股を踏むように腰を入れた体勢を作り、両拳を握りしめる……。また、大爆発を起こす気だ……。だが、オレは体を動かすことができない……。


 ぽいずんはビリビリとしたワルモンのプレッシャーに押しつぶされたのだろう。動けないでいた……。ノウレッジは危険を察知したのだろう。動けないぽいずんの体を抱きかかえ、気絶している他の十司祭たちのところまで戻る……。


「じゃあな……。クソ野郎ども……! 本当に久しぶりに良い戦闘をさせてもらったぜ。最高にイライラもさせてもらったがなぁ!」


 ワルモンは両手両足を伸ばし、体を大きく広げる……。その瞬間、視界は白色に染まり、強力な爆風がオレ達を襲った……。……オレが……スキルを最初から……取得してれば……、こんなことにはならなかったのか……? ……わからない……。何が答えだったのか……。ただ、一つだけ、はっきりしてることがある。…………オレは、いつも…………気付くのが……遅すぎる…………。

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